国会リポート 第446号

甘利明本人が綴る、毎月2回のコラムです。国政で今何が起きているのか解りやすく解説しています。
※本記事の無断転載を固くお断り申し上げます。

総 覧

 「時給23ドル(3,200円)で募集しても人が集まらない」アメリカの日系企業関係者のボヤキです。アメリカの物価は一時前年同月比で9%に上昇しましたが、直近では3%に落ち着きました。物価に追いつかなかった賃金は4.4%増と下がってきた物価を追い越しました。同時期の日本を比べてみると、物価の上昇は3.3%で賃金上昇は2.9%です。目指すべき方向は物価は2%、賃金は3%という毎年の連鎖です。資源や食材の輸入価格が落ち着き、賃上げを常態化していけば、デフレ脱却宣言と年率3%近い経済成長が確保されます。現在の名目GDPは572兆円、実質GDPは551兆円です。為替要因もあって4位のドイツとのGDPの差が詰まりつつありますが、物価上昇を超える賃上げの連鎖が定着すれば、日本経済に自信が戻ってきます。月例経済報告でも企業の景況感は上方修正され、設備投資は過去最高を更新するようですから、このマインドとトレンドを維持するべく適切な政策運営が正念場です。

 先週一週間アメリカを訪問しました。北カリフォルニア日米協会の要請で「日米イノベーション・アワード」のキーノートスピーチをスタンフォード大学で行い、翌日はサンフランシスコで日米GreenTechラウンドテーブルのパネリストも務めました。その機会にワシントンで旧知の上院議員やかつてのTPPスタッフ、そして国務次官補、日米企業関係者との意見交換を重ね、シカゴに飛んでバイオエタノール農場と生成工場も視察してきました。そしてシリコンバレーでは前述のシンポジウムに前後し、Appleやマイクロンを訪問しました。バイオ燃料、コーン農場の広さは2,000ヘクタール。その原料を使って生成するバイオ燃料工場は圧倒されるような大型タンク。やはりこの国との競争は生産コストではなくイノベーションで伍していくしかないと痛感しました。スタンフォード大学での講演の後にはチャットGPTを開発したOpenAIの技術責任者が待っていてくれました。専門用語を日本語で流暢に操る中華系カナダ人の彼は「天才とはこういう人」と思わせる若干32歳の青年。生成AIをポジティブにとらえている日本はとても魅力的に映るとのこと。

 日本で働いてみたいという彼の口からどの会社なら行ってみたい?という質問に対して、具体的な社名が出ました。AIのスーパースターが興味を持っている日本の企業、何かの機会にその社長に伝えてあげようかと思います。6年前に出来たApple本社はまさに圧巻。平らな巨大ドーナツを4層に積み上げたような未来形な建物で、廊下を1周すると1.6キロ。真ん中の空洞部分には森をイメージする公園が広がっています。広大な曲面ガラスで囲まれた内径の廊下を移動しながら同じような扉の奥へ進むと広いスペースにまばらな人。トイレから帰ってくるときにどこかわからなくなりそうです。ループ内の公園には散歩やジョギングをする道が作ってあり、スティーブ・ジョブズは歩きながらする2~3人での会話からイノベーションのヒントは生まれるという信念で、3人くらいのかたまりで歩くのにちょうどいい道幅。それにしてもリモートワークを推進している会社を創業したカリスマが「イノベーションはリアルな接触から生まれる」とは自虐的ですね。いずれにしても創業者の思いが詰まっているこの本社はいわば彼の最後の作品だそうです。

 そして念願の完全自動運転車に乗りました。GMクルーズの自動運転車はサンフランシスコの街中を通常の交通車両の一台として走ります。前が詰まっていたらレーンの移動も歩行者を検知しながら交通の波に乗り、自由自在に。考えてみればカメラとレーダーで360度の情報を昼夜関係なく正確に捉えるので、一人の運転手よりも安全なのは納得がいきます。でも乗ってしばらくは前の席に誰もいないのは不気味。テスラを上回る自動運転走行に日本のホンダが協働しています。なんだか少しホッとしました。帰国後、ホンダの役員と懇談した際この話に触れると技術的にはかなり自信を持っているようでした。

 

今週の出来事「♪風に吹かれて…」

 「水素活用はグリーン電力(再生可能エネルギー)がいかに安く利用できるかにかかっています」サンフランシスコのシンポジウムでの私の発言です。「安定的に強風が吹いているのはチリですが、水素を運ぶコストがかかるので、アメリカのアラスカの風力が良いかもしれません」「今、日本で一番アゲインストの風が吹いているのは官邸上空ですが、これは早く止んでもらわないと。(爆笑)」