国会リポート 第423号

甘利明本人が綴る、毎月2回のコラムです。国政で今何が起きているのか解りやすく解説しています。
※本記事の無断転載を固くお断り申し上げます。

総 覧

 「日本殺すにゃミサイル要らぬ、マスクひとつもあればいい」ひと月ほど前、経済安全保障とは何か、との朝日新聞の取材を受け、私が発した言葉でデジタル版でブレイクしたフレーズです。経済安全保障とは経済が時として武力以上の武器になるということです。マスクどころか医療用ガウンに至ってはその供給を、100%中国に依存していることがわかりました。ハイテク部材でなくとも、ローテクのサプライチェーンであってもエッセンシャルワーク用の備品をリスクの高い国に依存していると関係が悪化した時に命取りになるということがコロナ禍で洗い出されました。

 中国の習近平主席は昨年4月共産党中央財経委員会の席上、「あらゆる機器のサプライチェーンを中国に依存させ、引きつけて放すな。外国が我が国の外交防衛政策に対する批判で経済制裁をするなら、この武器を使って直ちに報復せよ」という報道がありました。他国の経済を自国経済に依存させ、自国を非難する言動を相手国が取れば、経済力を使って報復し服従させるという「経済力を使った内政干渉」の手法をエコノミックステートクラフトと言います。その手法は「その国にしかない貴重資源がある」ことや相手国のその国への「経済依存度の大きさ」によっては武器になりますが、経済制裁を発するほうの経済規模が相手国より相当規模上回ることが前提になります。

 アメリカの経済規模の7割を超え、世界のGDPの17%を超えた中国だからこそ出来る手法です。本来はWTO条約上違反となるこの行為は、検疫上の問題を精査中とか、貿易手続き上に疑義があった等の屁理屈をつければ発動可能となり、WTOパネル提訴されても結論が出るまでに相当な時間を要するために相手が諦めるというのが実態です。経済大国によるエコノミックステートクラフトに対抗するには、連合軍を組むことが重要です。複数国の経済を足し上げて発動国より大きい規模で対抗措置を打つという手段が有効です。アメリカが首脳会談の一番手として日本を選んだのは、地政学上の必然性に加え、価値観を共有しGDPの1位、3位連合が組めると言うところに意味があります。

 さてこの度、半導体戦略推進議員連盟を結成することと致しました。関芳弘議員から半導体の技術開発とサプライチェーンの戦略に関する議員連盟を作りたいのでその先頭に立ってもらえないかと相談がありました。かねてから水面下で半導体戦略の重要性を説いていたこともあり、与党として広範に取り組むべき時期と捉え、立ち上げることに致しました。

 「データは21世紀の石油。データを制する者が世界を制する」こう言って、サウジアラビアのムハンマド皇太子にファンドへの出資の説得を計ったのはソフトバンクの孫正義氏ですが、データが21世紀の石油なら、それを探査し採掘し精製し製品化していくのは半導体の役割です。即ち半導体を制する者が世界を制すると言っても過言ではありません。外の世界のアナログ情報をデジタル信号とし、コンピュータの中枢に届ける役目はアナログ半導体。その信号が集められ解析を行う脳の役割を担うCPUやGPUはロジック半導体、データの出し入れ保管はメモリー半導体、脳の指令デジタル信号を受けて、車や産業機器のモーター駆動を担う筋肉の役割はパワー半導体。さらには人間の視覚機能のイメージセンサー等、サプライチェーンの自国内完結や同志国完結等経済安全保障を戦略的に組み立てていく道筋が必須です。表の議論で組み立てる政策と内々に取り組む政策、機動的な組み合わせでジャパン・アズ・ナンバーワン・アゲインを目指していきます。

 

 

今週の出来事「おすわり!はい!」

『老いては子に従え』とは日本の古いことわざですが、私の今の心境は『老いては妻に従え』です。時代がそうであったにせよ、ベテラン政治家の奥様は少なからず自分の夢を犠牲にしてご主人を支えてこられたのだと思います。

 そんなことを考えつつ、いつもの通り国会に向けてウォーキング通勤をして、いつものコースで青山通りの歩道橋を上がりきった時に、ふと向かいのビルに目をやると『夫と猫のしつけ教室』という看板が目に飛び込んできました。ギョッとして「ついに日本もここまで・・・」と思いつつ近づいてよく見ると『犬と猫のしつけ教室』でした。

「あー、良かった。」

 でも5年後にはそうなってるんでしょうね。(笑)