国会リポート 第422号

甘利明本人が綴る、毎月2回のコラムです。国政で今何が起きているのか解りやすく解説しています。
※本記事の無断転載を固くお断り申し上げます。

総 覧

 総理訪米後の気候変動サミットで、日本も2030年目標の更新を迫られます。イギリスのジョンソン首相が大幅な削減にコミットしており、アメリカのケリー気候変動担当特使も意欲的な発言をし、これらに引っ張られる形で日本も厳しい選択を迫られています。

 各国は1990年以降のピークの排出年を基準に2030年における排出削減数値を自己申告します。日本の既存の申告数値はマイナス26%です。この数字も確実に積み上げられるものではなく、相当厳しい省エネと新たな技術開発の期待値が込められているものです。これに加えて、さらに大胆な数字を細目の根拠を示しつつ、提示することになれば相当な覚悟が必要です。意欲的な発言をする国々は自国にしかできないアドバンテージ(有利な条件)を確認した上での発言です。イギリスは北アイルランドとの海域に安定した偏西風、風の通り道を持ち、更に水深10メートルの強固な海底地盤を持っているため、極めて安価で稼働率の高い風力発電を林立できる裏付けがあります。加えて原子力発電も確実に電力供給のベース電源に据えることを前提としています。フランスは発電総量の70%を占める原子力を引き続き活用することを見込んでいます。石炭火力にその大層を依存しているドイツがそうたやすく達成できるとは思えませんが、風力や太陽光を拡大した時の電力周波数の乱高下はEU全体に送電網が広がっている特性を生かし、EU全体で変動を吸収できると目論んでいるはずです。アメリカには自身の都合を変更できる経済力、軍事力をバックにした発言力があります。

 翻って日本は既に国土面積当たり主要国中世界一となった太陽光発電を持ち、安定的風の通り道を持たないハンディキャップの中で風力の推進も計画しています。送電網は大陸とつながっておらず狭い国土の中で太陽光や風力の不安定さを調整していくためにバックアップ電源としての火力発電所を非効率に稼働しなければなりません。よその国が持っている強みとなるバックボーンを全く持たない日本が海外と同等の大胆な削減目標を提示しなければなりません。ようやく9基が稼働となった原子力は発電総量のわずか6%になっているに過ぎません。

 イギリスは風力の圧倒的優位性に加え、原子力発電を15%以上確保して行きます。日本は国際原子力機関が定める基準を上回る、大幅に強化した安全基準をクリアしながら未だ再稼働が遅れている原子力を稼働させなければ2030年目標を大胆に更新することは不可能です。国際政治交渉の中で日本は極めて純朴で誠実な交渉者です。約束したことは誠実に実行する国家です。しかし国際交渉の現場に立てば各国の交渉は極めて戦略的です。いかに自国に有利な方法で目標を達成していくか、2030年、2050年を迎えたときに自国が今よりも有利な立ち位置に立っているためにはどういうアプローチをするべきか、極めてしたたかな戦術を施行します。

 世界最大のCO2排出国は中国です。世界全体の3割近くを中国だけで排出しています。その中国は「自身は途上国」との主張の下に2030年まではさらに排出量を増やしていく宣言をしています。中国が1割強の削減をすれば、日本の全排出量に該当します。アメリカの7割の経済規模を持つ経済大国が削減努力を強いられることなく2030年までさらに排出量を増やしていく、という事を許していたら他国のどんな努力もはかないものに終わります。先進国が結束をし、せめて「現在の排出量を上限とする」ということを中国に迫るべきです。「俺は血ヘドを吐いて目標を達成した。しかし地球全体では温暖化は進んだ」というような結果を招かぬよう大量排出国にはそれなりの義務を課すべきです。

 

 

今週の出来事「ウォンツ 甘利!」

 フェラーリの日本人デザイナーとして有名なケン奥山さんの講演が印象的でした。

 世の中には無くてはならない物は「ニーズ」、無くても困ることはないが欲しくなる物が「ウォンツ」。デザイナーはウォンツを生み出す仕事、と言う話でした。

 掃除機のダイソンの創業者は役員の猛反対を押し切ってゴミがプラスチックケースの中に何層にも圧縮される「見える化」を通じ掃除が楽しくなる、「ニーズ」を「ウォンツ」にしてヒット商品化したそうです。

 そうです!私も9年前、白髪染をやめて、頭髪の「見える化」をしたんです。ヒット商品になりました。(なんか違うな(笑))