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「昨年はちょっと詰め込み過ぎましたので今年は少し余裕のあるスケジュールにしました」毎年この時期に訪米団の団長を依頼されている主催者側からの言葉でした。結果は5日間の滞在で20回以上の会談です。これでも昨年の3分の2です。ずいぶん楽になりました(笑)。上下両院議員や国務次官をはじめとするアメリカ政府関係者並びにシンクタンク及び大学の総長そして、在ワシントン日本企業関係者等々、今年も盛りだくさんです。5月19日から始まるG7サミットは①法の支配に基づく国際秩序の堅持と②グローバルサウスへの関与の強化がメインテーマです。もちろんインド太平洋構想や経済安全保障、気候変動等課題満載です。
ワシントンで関係者との意見交換で中心になったのは経済安全保障でした。日本が世界に先駆けて経済安全保障の推進のための法的枠組みを作ったことはかなり評価されていて、ある会談ではアメリカ側から「あなたは経済安全保障政策のゴッドファーザーと承知しています」と切り出されました。半導体をはじめとする機微技術や戦略物資のサプライチェーンの安定化は同盟国、同志国間で優先順位の極めて高い政策と確認しました。
中国に対する対応で議論が集中したのはデカップリング(分断)とカップリング(連結)の棲み分けです。私からは、その技術や製品が緊張関係にある国に渡った場合、やがてそれが武器技術等に反映されてこちらへの脅威となって跳ね返ってくるものは、全てデカップリングとすべきだ。従来から重要技術を持つ日本企業の中には、緊張関係にある国の企業との技術格差を5年から10年保つという輸出管理政策をしているとの披歴も致しました。一方、汎用品は通常の貿易管理で差し支えない。ただし広大なマーケットを持つ市場国(世界に市場国はアメリカと中国とEUしかありません)による経済的威圧、つまり自国に貿易依存をさせておいて、言うことを聞かなければ貿易遮断するということついては、市場の小さい国は対抗措置が打てない。過去に中国はオーストラリアが中国の問題点を指摘した際、報復措置としてオーストラリアからのワイン等主要産品に輸出規制をかけ、経済的威圧を使い内政の干渉を試みました。オーストラリアはそれに屈せず耐え抜いたが、問題は別の国がその隙間を埋めるかのように中国への輸出を強化した。こうした抜け駆けは中国の思うつぼで、そうした場合には市場の小さい国は連帯して対抗措置をとることによって対抗する、それはいわば経済版の集団安全保障とすることが出来る。これはイギリスの前首相トラス氏が提案した経済版NATOの案ですが市場国に対抗する非市場国の措置としては有効だとコメントしてきました。
台湾有事に対するシミュレーションが真剣に行われている米国から見ると、よりリスクに直面している日本の緊張感のなさがかなり心配になっているようです。 「関わらないことが安全」という考え方は、安全保障の観点からも国際常識からもかけ離れているということです。尖閣、先島諸島、沖縄と繋がる国土保全問題、米国との安全保障や経済連携に関する同盟関係、それらに何の影響もなく台湾有事を見過ごせると思うなら、主権の喪失へと繋がりかねません。「簡単に脅しに屈する国」のレッテルを貼られたら強権国家の下僕になる道しかありません。
ハドソン研究所で講演をしましたが、一帯一路に対する代替策として、インド太平洋構想があり、その経済的効用として、インド太平洋経済枠組み(IPEF)がバイデン大統領から提示されました。我が国は支持をしましたが、ASEAN等の国では「経済メリットがなく、ありがたみがない」との評価です。 21世紀の火薬庫、東アジアの安定にはアメリカのプレゼンス(存在)とその正当性が必須です。そしてその両方を満たすものこそTPPと強調をしました。「個人的には賛同するが、今はその時期にない」アメリカも変わりつつあります。
今週の出来事「アグレッシブ・ダヴ(鳩)」
「ハト派だった岸田氏は総理になったら防衛費倍増のような決断をするようになった。何が彼を変えたのですか」
ハドソン研究所での講演後の質問です。
「まだ解明はされていませんが、ハトの遺伝子の中にはそういう要素があるんではないですか」