国会リポート 第445号

甘利明本人が綴る、毎月2回のコラムです。国政で今何が起きているのか解りやすく解説しています。
※本記事の無断転載を固くお断り申し上げます。

総 覧

 広島サミットが成功裏に終わり、国会も法案成立率97%という成果で閉幕しました。政治情勢は秋の内閣改造、その後の総選挙へとの観測に翻弄されています。イタリア、ベルルスコーニ元首相の国葬出席の間に16日解散との観測が流れました。ミラノから党のしかるべきところに連絡を入れると、可能性は五分五分とのことでした。支持率を一時的に上げる様なイベントの間隙をついて解散を打つという手法は、私には賛成しかねます。内閣支持率など1週間で上下するものです。それより、やるべきこととその必要性をしっかりと国民の皆様に説いて確かな未来を提示し、そのための工程を共有して信を問うべきだと言い続けてきました。増税をする前に解散をしてしまおうという考えがあるとしたら、有権者は政権に対する信任を与えないはずです。国民負担を増やすという行為はしないで済むならそれに越したことはありません。どうしてもその必要があるとき、例えば防衛費の増額分の四分の一は増税に頼らざるを得ないとしたら、なぜ防衛費の増額が必要なのかしっかりと説明し、増税を極力少なくする努力をしたうえでその増税分が具体的にどのくらいの国民負担になるのかを説明する必要があります。個人の税金が現状から増えるわけではありません。すでに増税等により30兆円以上を投じている東日本大震災復興事業は、そのかなりが終了し、今後必要な予算は減っていきます。その結果生じる財源を活用して被災地の人々の安心安全のみならず、全国民の安心安全を図ろうとするものです。法人税の増額について、税額の4~5%という話が税率を4~5%上げるという誤解を生んでいます。納税額1千万円の企業は納税額1千40万円程度になるという話が法人税率の4%加算と誤解されているわけです。

 台湾有事になれば、最先端のロジック半導体の8割以上は供給が止まります。その衝撃は日本のGDPを90兆円落とすと試算されています。リーマンショックの倍以上の衝撃波となります。日本の自衛隊は「たまに撃つ、弾が無いのが玉に傷」と揶揄されるように継戦能力がありません。補修部品を確保するための予算がないため、10機の航空機を購入すれば1機は部品供給用に使わねばならないという状況です。耐震構造を満たしていない隊舎もいくつもあります。ミサイル攻撃に対する反撃能力も圧倒的に足りません。反撃能力があればあるほど相手の攻撃をためらわせる、それが抑止力です。実情を正直に国民に相談すること、そして同等に重要なのは未来への夢を描き、国民と共有することです。5~6年前から私が描いてきた全ての政策がサミットや日米首脳会談のテーマになりました。サミットの主要テーマは経済安全保障政策であり、日米首脳会談の主要テーマはグローバルスタートアップキャンパス構想でありました。また世界の半導体企業のトップが岸田総理との会談で表明したのは、我が国への投資でした。これらは私が一から手掛けてきたものです。

 先般、経団連デジタル委員会との席上、冒頭私から「経団連が傘下企業に賃上げを要請したことは何度かありますが、取引先中小企業の人件費や材料費の高騰に対応する仕入れ価格の引き上げを発信したのは初めてです。岸田内閣は賃上げと成長の好循環を作りたいと思っているのです」と申し上げました。継続的な賃上げを可能にするイノベーションのエコシステム、つまり構造的にイノベーションが起こり続ける生態系を創る政策です。グローバルスタートアップキャンパス構想は、私がCSTI(総合科学技術・イノベーション会議)上山先生と5年前から取り組んできた夢の具現化です。MIT(マサチューセッツ工科大学)が若手研究者のキャンパスを展開し、他の世界有数大学も進出予定です。未来型シリコンバレーから世界を変えるようなイノベーションが続々デビューしていく、そんな夢を国民の皆様と共有したいと我々は切に願っています。

 

今週の出来事「あの時、君は若かった」

 新しい選挙区の三分の二は最初の10年を戦った中選挙区時代に住んでいた相模原市南区です。今や駅前はマンションが林立し様変わりです。

 39年前の初陣で襷をかけて、駅前で遊説車の到着を待っているとご婦人が歩み寄ってきて「今日はどちらであるんですか?」と聞かれました。個人演説会かと思い「こちらの方では今日は無いんです」と答えると「リサイタル中ですか?」と。地方巡業の新人歌手と間違えられました。

 昨日のように思い起こします。