国会リポート 第439号

甘利明本人が綴る、毎月2回のコラムです。国政で今何が起きているのか解りやすく解説しています。
※本記事の無断転載を固くお断り申し上げます。

総 覧

 安倍元総理の銃撃死事件から10日余りが経ちました。未だ朝起きると、あれは現実だったのだろうかという思いが真っ先に頭をよぎります。心からご冥福をお祈りします。

 今後、岸田政権は衆参で選挙に勝利し、絶対安定多数を取りながらも、不安定要因を内在する政権運営を強いられます。先頭に立って高めの豪速球を投げ、批判を一手に受け切れるだけの政治的体力のある安倍元総理の存在があればこそ、岸田総理の政治選択は「バランス感覚のある選択」として評価されて来ました。政界最強の重石を失った今、誰も安倍元総理に代わる存在がない中で、各種課題に対する妥当な「着地点」を自身が先頭に立って探って行かなければなりません。これからが本当の岸田総理の「胆力と真価」が問われます。岸田派は今こそ、身を捨てて総理を支える本当の四天王を作らねばなりません。我こそがNo.2を自任するものは、全ての役職を捨てて岸田総理を支えてこそ評価の対象になることを肝に銘じてもらいたいと思います。

 最大派閥の安倍派は「当面」というより「当分」集団指導制をとらざるを得ません。塩谷、下村両会長代行に加え、西村事務総長と世耕参議院幹事長、閣内には要の官房長官たる松野さんと萩生田経産大臣が主要メンバーと言われますが、誰一人現状では全体を仕切るだけの力もカリスマ性もなく、今後どう「化けて行く」のかが注視されます。

 そしてもう一つの注目すべき点は菅前総理と二階派の存在です。2つがどう結ぶのか、二者を繋ぐ存在が森山前国対委員長です。私がTPPをまとめた際、党内の農水族の「真意」を測った存在が彼でした。政局感の鋭い政治家です。

 私は20年近く前から政策を語り合いつつ懇親をする若手の会の一つを主催して来ました。その中に岸田総理を含め現政権政府自民党の主要メンバーがいます。菅前総理もメンバーでしたが近くにいるのに、いや近くにいたからこそ岸田総理との距離感が出来てしまったことが返す返すも残念です。岸田さんの温厚さが曖昧さと映り、政治家としての決断力への不安との受け止めになったのかもしれません。

 しかし「職が人を作る」と言われます。総理になって以降の岸田さんは日を追うごとに総理の風格が備わってきたと見えるのは私だけではないと思います。今後修羅場を経験して「平時の岸田」から「有事も岸田」へと進化していくことを期待したいと思います。

 ホワイトハウスが半旗を掲げ、国連安保理が開会前に全員起立して黙祷を行う。そしてインドは国家として喪に服すと発したり、かつてない光景は安倍元総理の偉業を世界が最大評価する証です。

 私なりの安倍元総理の功績の視点は
1)アベノミクスで20年以上に渡るデフレからの脱却の道を開いた。
2)WTOがフリーズする中、TPPを主導し自由貿易の新たなテンプレートを作った。
3)インド太平洋構想で一帯一路に対する自由民主主義側の対抗軸を構築した。
4)特定秘密保護法で「スパイ天国日本」の汚名を返上すべく、国際テロ犯罪情報含む機微情報をファイブアイズ国と共有出来るよう環境整備に着手した。
5)平和安全法制で平時と有事の間のグレーゾーンでの国家としての対応の法的明確化を図り、日米安保条約に対する米国の不審の念を払拭したことが挙げられます。

 いずれも政治家が政治リスク上なるべくなら避けたいが「火の粉を浴びてでも」やらなくてはならない政治的決断でした。あるテレビ番組で今後やるべき課題を出演者がボードに記しましたが、私は「(安倍氏の)遺志をカタチに」と書きました。

 

今週の出来事「遺伝子?」

 安倍元総理が父上の安倍晋太郎外相の秘書官をしていた頃、ある途上国との会談に同席した際のことです。先方の首脳が「我が国は日本の貢献に心から感謝しています。日本は私たちにとって兄のような存在です。まだまだやらなければならないことは多々ありますが、あとは我々の努力です。日本に甘えすぎずに自身でも頑張ります」

 これに感激した安倍外相は隣席の外務省幹部に「おい!この予算を倍額にしろ !」

 あわてた高官は走り書きのメモをそっと安倍秘書官に渡しました。開くと『父上を抑えて下さい』と書いてあったそうです。 情にほだされる優しさは父親譲りですね。