国会リポート 第438号

甘利明本人が綴る、毎月2回のコラムです。国政で今何が起きているのか解りやすく解説しています。
※本記事の無断転載を固くお断り申し上げます。

総 覧

 政府の次年度以降の政策の柱建てを決定するいわゆる「骨太の方針」がリフレ派と財政再建派の間で激論になりました。プライマリーバランス黒字化への道すじに関し、社会保障費の増加に3年間縛りをかけた過去の政策を今回に適用させるかのような表現にリフレ派が猛反発したためです。リフレ派が財政再建派の発言を圧倒した陰には安倍元総理の強い意思が働いていると報じられました。この議論の裏に「アベノミクスが否定されたのでは」との安倍元総理の懸念があったことは事実だと思います。アベノミクスの手法は今でも間違っていないし、岸田総理自身アベノミクスを評価した上に新しい資本主義は存在するとロンドンのシティでも講演しています。

 日本の30年来の課題はデフレを脱却しつつ、その先に財政健全化を図るというものです。アベノミクスは「経済成長なくして財政健全化なし」の理念のもとに、GDPを拡大し名目成長と実質成長の逆転現象を正常化し、デフレ脱却を図ったのちに経済拡大による、自然治癒力の強化を通じてプライマリーバランスの黒字化を図るという道すじです。新しい資本主義はアベノミクスの否定から始まるものではなく、肯定から始まる「アベノミクスの進化形」の存在であるということです。アベノミクスの一の矢、金融緩和で流動性の拡大を図り、二の矢、機動的財政出動で需要の創出を図る。この一の矢も二の矢も成功し、円レートの過大評価の是正とあいまって、輸出企業を中心に企業業績は大幅に改善しました。問題は三の矢、つまり成長への投資を企業が政府が期待したようには行わず、現預金の増大へと走ったという点です。

 その原因は、バブル崩壊後の課題だった債務、設備、雇用のいわゆる三つの過剰をコストカットにより凌いで今日に至った経営者の「成功体験」にあります。新たなリスクを取る投資に臆病になり、現預金を増加させ守りの経営へと向かったためです。リスクを取るという経営者本来のDNAが失われてしまったことを称して、昨年の税調大綱にはアニマルスピリッツを失ってしまった守りの経営が今日の停滞を招いているとあえて記載した次第です。アベノミクスの三の矢の推進のために新しい資本主義では、株主に加え従業員や下請け、取引先等、ステークホルダー全てをアセット、つまりその会社の資産、経営資源と捉え、これらの資源のブラッシュアップは、コストではなく、投資であり、そうした投資を抜本的に図るべしとしました。つまり従来のコストという見方から投資という視点に変革し、課題は障害物ではなくチャンスと捉えるという考え方です。さらに社会課題解決をCSRつまり社会貢献として企業のレピュテーション(評判)を上げ点数を稼ぐということではなく、課題自身を新市場開拓への好機と捉えることです。誰よりも早く社会課題にチャレンジし解決した者が、その先にある、まっさらな市場、ブルーオーシャンに一番乗りできるという考えです。ですから新しい資本主義はアベノミクスと対峙するものではなく、アベノミクスが進化した存在であるということです。成長なくして分配なし、に加え分配なくして成長なし。つまり分配は分け前の配分ではなく、企業を構成する各種アセットへの投資であり、推進エンジン性能の強化という意味でもあります。分配は成長のエンジンなのです。そして事業分野への投資は、スタートアップ、科学技術イノベーション、人材、カーボンニュートラル・デジタルの四本の柱建てです。

 

今週の出来事「BTS、SOS!?」

 韓国の防弾少年団改めBTSがグループ活動休止を発表しました。アメリカのヒットチャートで堂々1位もさることながら、ホワイトハウスに招待され、バイデン大統領と流暢な英語でやりとりをしていたところにクオリティの高さを感じます。

 そのBTSの休止宣言は韓国芸能プロダクションの過酷スケジュールにあるとも言われています。コンテンツ政策を担当する議員の一人として近年の日韓の芸能プロデュース力の格差に愕然としていますが、国内市場規模が小さいが故に最初から世界を見据えるチャレンジャーとの差を認めざるを得ません。パフォーマンスの質の完璧さの追求と裏腹にその投資回収のスケジュールがハードになっているのではと思います。

 それだけに相当無理を強いているのであろう韓国芸能事情を象徴するBTSの問題。TBS??は大丈夫なんだろうか。(笑)