国会リポート 第414号

甘利明本人が綴る、毎月2回のコラムです。国政で今何が起きているのか解りやすく解説しています。
※本記事の無断転載を固くお断り申し上げます。

総 覧

 文藝春秋今月号にノンフィクションライター石戸諭氏による「間違いだらけの甘利リポート」なる記事が掲載されました。書面で質問を頂いた後、極めて高圧的に電話で催促を頂きました。正確を期すために、その質問とこちら側の回答についてそのまま掲載させていただきます。

 

『1.先方からの質問状』

甘利明先生
 突然のご連絡で失礼いたします。月刊「文藝春秋」で日本学術会議問題とその余波をテーマに取材をしているノンフィクションライターの石戸諭と申します。 甘利先生のブログとツイッターを拝読いたしましたが、甘利先生のご発言が多くのまとめサイトなどに「エビデンス」として引用され、その余波で中国にて研究する日本人研究者がインターネット上で実名をさらされ、「中国のスパイ」扱いをされています。 甘利先生はご存知かと思いますが中国にいる研究者で千人計画に参加している研究者は基礎科学がほとんどであり、およそ軍事技術からは遠い方々ばかりです。さらにいえば、基礎研究のために海外に渡った日本人研究者はアメリカにも数多くおり、日夜研究に励んでおります。

 こうした点につきまして、今一度、甘利先生のご意見をお伺いいたしたく思います。具体的には以下のような質問をしたいと考えております。
・日本学術会議がどのように「間接的」に千人計画に加担したのでしょうか。具体例とエビデンスを教えてください。
・千人計画はそもそもアメリカなどに留学した中国人研究者を呼び戻すための政策であり、中国の軍事研究に外国人が参加できないのは中国にいる科学者の国際的常識との声があります。ご見解を教えてください。
・甘利発言が多くのまとめサイトに転用された問題についてご見解をお示しください。
・基礎科学の研究者に対する不当なバッシング行為について見解をお示しください。
・日本が基礎科学に予算を割かないがために、日本人研究者が働く場をアメリカや中国に求めるという声があります。この点について見解をご教示ください。

  なお、ご連絡を頂戴できなかった場合には、質問事項を掲載した上で「ご回答がなかった」旨、原稿内で示す予定です。ご検討のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。

 

『2.こちらの回答』

 経済安全保障政策の検討過程で、政府機関その他、国内外の様々な処から、先端技術情報漏洩リスクについて情報を得ておりました。そうした情報の一つに、日本学術会議の件がありました。その内容とは、今迄に、会員又は連携会員として日本学術会議に所属していた10名近くの研究者が過去に中国の千人計画に参画しており、その中には、中国が軍事研究拠点としている中国国防七校と研究を行っていたとの報告もありました。

 なお、一部は現在も在籍との報告を受けております。そしてその中には中国教育部が兵器科学の最高クラスの研究機関として位置付けている大学で研究に参加している研究者もいると報告を受けています。

 加えて、日本学術会議が中国科学技術協会と覚書を結んでおります。

  覚書の中身はその覚書の範囲内で推薦された研究者を受け入れ、研究プログラムの調整や現地サポートの対応を行う事になっています。 つまり、日本学術会議と中国科学技術協会は必要に応じて推薦された研究者を受け入れることになっています。

 その一方で、日本学術会議は日本の安全保障研究については加担すべきではないという過去二回の宣言を踏襲するとしています。

 日本の安全保障研究には否定的な一方で、中国が軍事研究に繋げることを宣言している(日本のリスクになる)中国の大学との研究には能動的です。 安全保障も含めて日本国民に貢献すべき日本学術会議のこうした対応の違いに極めて違和感を覚えた次第です。

 それでも、日本学術会議は「千人計画に協力していない」と反論されているので、そういう風に映ったと表現を修正致しました。その上でご質問に追記をさせて頂きます。

 中国に居る研究者で千人計画に参加している研究者は基礎科学がほとんどであり、およそ軍事技術からは遠い方々ばかりというご指摘ですが、ファクトとして兵器を開発している大学で研究に参加している方があり、そこの研究施設の広報物には兵士とその開発機器が協働しているポンチ絵が描いてあります。ご指摘の通り参加者は基礎科学の分野の人であり、軍事研究に協力している意識がない人が大半かもしれません。しかし中国政府は先端科学研究を軍事の中核に据える大方針を公言しています。基礎研究成果が軍事技術にとって極めて重要と捉えています。

 次に千人計画はそもそもアメリカなどに留学した中国人研究者を呼び戻すための政策とありますが、当初はそうであったとしてもその後は間違いなく中国人に限らず優秀な外国人研究者を呼び寄せる為に使っています。「私も声をかけられました。もちろん引き受けてはいませんが大変魅力的な条件を提示されました。」と直接私に言ってくる研究者もありました。

 次に日本が基礎科学に予算を割かないために働き場をアメリカや中国に求めるとのご指摘です。確かに科学技術政策で我々がもっと力を入れなくてはならないところです。そこで私が3年前から強く進めてきました大学やその研究者に対する長期安定的資金供給のしくみとして10兆円の基金を設立するということが来年度から着手されます。私が麻生財務大臣とサシの話し合いをして規模、方法は今後の調整としても基金設立は了解をすると合意を取り付けました。10兆円と言う規模を何としても確保すべく仲間と奮闘中です。この運用益を(フル稼働時には)2,000億円、大学院博士課程や若い研究者に安定的に配分できるように来年度予算に盛り込むべく奮闘中です。

 安倍内閣が出来る以前の野党時代から将来の科学技術政策のあり方について大学の先生方を交えて仲間と勉強会をしてきました。そのプランを実行すべく政権を取り戻したときから取り組んで来ました。この度、科学技術基本法を抜本改正し、科学技術の範疇に自然科学だけでなく人文社会科学も入れるべきだと私が強く主張したのは、今は亡きスティーブ・ジョブズの「イノベーションは広い教養、リベラルアーツと専門科学技術が融合したところから生まれる」という言葉を心に刻んでいたからです。総合科学技術イノベーション会議と協力して実現したものです。この法案の抜本改正に関しても国対委員長とサシで話をし、何としても会期内に間に合わせてくれと直接要請をしました。

 研究者に対する私の姿勢にご疑念をお持ちの様ですが主要国立大学の総長や学長に私の評価をお問合せ頂ければ幸甚です。

 

 以上が先方の質問とこちら側の回答です。 問題は学術会議が中国への参加は問題としないのに、防衛装備庁の予算が「基礎研究」で「成果はすべて公開」という条件であってもなぜ参加させないのかなのです。