国会リポート 第413号

甘利明本人が綴る、毎月2回のコラムです。国政で今何が起きているのか解りやすく解説しています。
※本記事の無断転載を固くお断り申し上げます。

総 覧

 二ヶ月前の国会リポートで日本学術会議に関し私が言いたかった趣旨は
1)アメリカが警告している様に、中国の千人計画は世界中の一流学者の経験と知識を厚遇で中国が吸い取る計画であること
2)日本からこの計画に何人もの学者が招聘されていること
3)中国は軍民融合宣言で民事と軍事を融合させ、民事研究を軍事に貢献させることを強いることで先端科学研究を安全保障の基軸に据えていること
4)そうした中で日本学術会議は2015年に中国の科学技術協会と協力の覚書を交わし、日中の研究者の受け入れについて学術会議が、「本覚書の範囲内で推薦された研究者を、通常の慣行に従って受入れ、研究プログラムの調整や、現地サポートの対応を行う」と積極的な約束をしたこと
5)その一方で、防衛装備庁の科学技術研究費への申請を各大学の自主性に任せるとしながら、実質的にはそれへの不参加を強く要請したこと。
6)(我が国の国民を守るための)安全保障研究には歯止めをかけながら、日本のリスクになる中国の千人計画には何ら警鐘を鳴らしていないばかりか、研究者の交流について積極的にサポートすると約束したこと。つまり日本の公的機関でありながら対日本と対中国との対応の落差を指摘したかった訳です。

 「積極的に協力」と云う表現が適切でないとしたら「間接的に協力していることになりはしないか」と改めさせて頂きます。日本学術会議の会員の大半は、純粋に科学研究を遂行したいとの思いから、防衛装備庁の資金であっても、「研究公開の原則」が守られていれば申請したいと考えています。マジョリティの声で運営されていないと云う科学者からの内なる声も気になる処です。

 コロナ禍を通じ、日本の脆弱性が露呈されました。毎年7,000億円近い投資をしながら部分最適で全体最適の機能を果たしていないデジタル化、他国に依存したサプライチェーン等、日本社会の脆弱性がむき出しになりました。今後の投資プランはこれまでの漫然たるレガシーシステムをそのままにして部分最適のためのICT化を進めるのではなく、全体最適に向かうデジタル化、つまりデジタル化を通じた社会全体の変革、真のDX(デジタルトランスフォーメーション)を実現していかなければなりません。既存の組織のあり方やワークフローを残したままデジタル化が進んでいることは、社会全体のデジタル変革には足かせになります。投資したレガシーシステムを全て捨て去るのは難しいとはいえ、全体のアーキテクチャーが繋がり機能するデジタル化を進めていかなければならなりません。考えようによっては何もない後発国のほうが一挙に前に出る有利さを持っていると言っても過言ではありません。だからこそ力づくで統合システムにしていくことが必要になります。肝は2点。データを繋ぐアーキテクチャーの統一化とシステム間の接続の共通化です。個々のソフトやサーバーのインハウス化からクラウド活用へと進化をさせることです。もちろん調達の一元化は一丁目一番地です。中央省庁のみならず、地方自治体も地方自治の自立を乗り越えて中央省庁と一体化をしていかなければ全体最適とはなりません。税制や補助金等推進政策も将来のあるべき姿を誘導していくものにしていかなければなりません。

 日本、米国、ドイツを代表するシンクタンクが連携してテクノロジー.アライアンスの方途を模索しています。そのプランを発表するに当たり、私に冒頭のスピーチを依頼されビデオに収録しました。ぶっつけ本番に慣れてるはずの10分間の(会の趣旨に沿った)挨拶は珍しく三度の取り直しをしました。英語の字幕入りで世界に流されると意識して、少し緊張したせいです。そのシンポジウムは「民主主義が危機に晒されている」と云う西側の共有認識で始まります。「民主主義が権威主義の挑戦を受けている」と云う危機感です。コロナに社会の脆弱性を思い知らされた世界はDX(デジタルトランスフォーメーション)が一斉に進み、その達成の早さが国力の差を取り返しのつかないものにすると云う危機感です。「デジタル化は手段であって目的ではない。」とは平井デジタル大臣の口癖です。DXはデジタル化を手段として社会を変革(トランスフォーム)するものです。そしてそれは国民に資するものでなくてはなりません。

 

今週の出来事「強化選手入り?」

 毎朝のウォーキング習慣が知れ渡るにつれ、色々なアドバイスを頂くようになりました。TPP時代の番記者さんの一人が足首に装着する1キロの重りをプレゼントしてくれました。プロスキーヤーの三浦雄一郎さんが普段付けているあれです。今からトレーニングすると来年のオリンピックの競歩に間に合うかな。