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日米TPP交渉が一段落しました。報道が錯綜する中で「かなり進展はあったが合意には届かず」と報道した社がありましたが、それが正しい報道です。
このひと月あまりの間に東京-ワシントン-東京と場所を移しつつ、延べ42時間の大臣交渉を行いましたが、その半分以上は事務方を排して一対一の交渉でした。広範なTPP交渉の内、物品の関税を自由化する部分を中心に集中的に交渉を行いました。日本のセンシティビティ、農産品5品目等と、アメリカのセンシティビティ、自動車をどう折り合いを付けるかで交渉が難航しているわけです。交渉が決着をした品目はありませんが、日米の距離は大分狭まってきたと感じます。
共同声明ではTPPに関し、「2国間の重要な案件について前進する道筋を明確にした。これはTPP交渉における重要な節目になる。それが新しい勢いをTPP交渉全体に注入する。」とありますが、要すれば日米間に残されている重要な案件について合意にたどり着く道筋が明確になった。そのことは交渉妥結への重要な一里塚になる。それが全体交渉に新しい推進力を付けるというものです。
オバマ大統領はTPP妥結に向けて並々ならぬ決意を持っているようで首脳会談の席上でも作業の加速に言及し、「フロマンと甘利大臣には何ならこの場を抜け出しても交渉してもらおう。二人とも眠そうだが、コーヒーを飲んでもらおう。」と言いつつ、私の方を見てニヤリとしました。一、二ヶ月前の側近を集めた会議でTPP妥結をオバマ大統領のレガシー(歴史的な評価物)にするということが決まったらしく、そこから交渉の加速が始まったようです。
共同声明で最も注目される点は初めて公式に 尖閣に言及した点です。『日本の施政下にある尖閣諸島は日米安保の対象となる。』東アジアにアメリカの軍事的プレゼンスを宣言した一文です。
ワシントンでフロマン代表から少人数の食事に招かれた折、彼とオバマ大統領との出会いが話題になりましたが、付き合いはハーバードのロースクールでクラスメイトだったことから始まったそうです。ハーバード・ロースクールの学生新聞の編集長のポストは最高の名誉でその選挙はローマ法王の選挙のごとく一昼夜かけて行われるそうです。それにオバマ大統領とフロマン代表の親友の二人が立候補して競ったそうで、結果はオバマ大統領の勝利になり、フロマン代表の親友はいまだに「あの時に俺が勝っていれば大統領になったのは俺の方だった。」と言っているそうです。フロマン氏がどちらに投票したかは「大統領には秘密にしている」とのこと。その後、大統領が編集長になり、フロマン氏が編集員の一人になったそうです。「あなたの成績はトップだったという噂だが、大統領はどうだったの?いや国家機密か。」と尋ねると、笑いながら「彼は優秀でしたよ。」とのこと。彼が同席させる交渉官はいつも女性の二人ですが、「日本ではあなた(フロマン氏)の人気はないけど、女性お二方は結構人気があるよ。」と言うと大笑い。強面の印象しかないフロマン代表は結構おちゃめな男で日本で交渉を再開した冒頭、「俺は少し面白くないんだ。」と切り出したので、何事かと思いきや、「甘利さんはこの間の記者会見で私を待ち受ける気持ちを『恋人を待つほど嬉しくはない。』と言ってたでしょう。だから今日はプレゼントを持ってきた。」と言って、チョコレートを一粒差し出しました。
日米首脳会談を受けて午後に再開した会合でホテルを出てるはずの彼らがなかなか到着しないので不思議に思っていると、「大統領からの差し入れを持ってきた。」と言って、自分で買ってきたスターバックスのコーヒーを差し出したり、典型的な陽気なアメリカ人です。冗談の言い合いで笑いに包まれた後、私が「そろそろ戦闘モードに入っていいか」と言った途端、バトルが始まるわけですが、爆笑から 激昂までおよそバラエティに富んでいる会談です。まぁ何でも言い合える関係は悪いことではないと思いますが。