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3月12日に大手主要企業の春闘の回答が出されました。回答があった企業のほとんどが賃金改善を発表し、そのほとんどはベアすなわちベースアップを回答致しました。これだけの企業がベアを回答するのは久しぶりです。中には満額回答の企業も散見されます。安倍内閣では秋に政労使の協議会を立ち上げ、経済の好循環に資する共通認識の醸成に取り組んできました。
経営側は収益の改善を賃金や下請代金に反映すること。労働側はステップアップのための多様な働き方の認識を持つこと。そして政府側は企業収益が賃金や下請代金に反映されやすいような環境づくりを行う。三者が経済の好循環についての共通認識を持つということに取り組んできました。賃金交渉は経営側と労働側の民間契約であり、自由主義市場経済において政府が介入することは推奨されることではありませんが、20年近く続いたデフレを脱却するために禁じ手とも言われる手を臨時異例に打ったわけです。
回答当日にトヨタが副社長以下で賃上げの意向を伝えに来ました。ベアの回答と合わせ、パートの日給も200円、月額換算4000円の処遇改善を行う旨、報告がありました。新聞でベアを行わない旨を報道されたスズキ自動車からも連絡があり、若手を中心にベアに準ずるものを行うというものでした。賃上げを回答した企業のうちの8割が政府の要請を意識したと回答しました。臨時異例の策としての「禁じ手」は明らかにその効果を発揮しました。政労使の取り組むべき努力のうち企業収益が賃金や下請代金に反映するための環境づくりとして、復興特別法人税の一年前倒し廃止を行いましたが、その時点では野党側から轟々たる非難と反発を受けました。
しかし、むしろそこまで安倍内閣が火の粉を被って環境整備をした以上、減税分をタダ取りすることは許されないという雰囲気が醸成されたことは間違いありません。記者会見の席上で政府がこれだけ環境整備をし、その上で収益が出ているのにもかかわらず、なんの協力もしないという企業があれば経産省から何らかの対応があると私が発言したことに一部経済界から反発がありました。実はこの税制を総理や官房長官と相談した際、これだけ政府が火の粉を浴びる政策を決断する以上、きちんとフォローアップをするよう経産省に申し伝えましたが、その結論として、大手企業の春闘の回答結果を経産省が一覧表で発表するということになりました。それ故、何らかの対応があると意味深長の答えをしたわけですが、それがいい意味で憶測を呼んだわけです。
今後のカギは成長戦略の具現化です。3月末には総理から国家戦略特区の地区名の発表があります。国際ビジネスの集積拠点やライフサイエンスの集積拠点、農業産業の集積拠点等、いくつかのコンセプトに沿って選考された地域の発表があります。国家戦略特区はオールジャパンで日本の経営資源の集積を図るところです。そこにはまず自身の改革意欲と改革プランが何よりも必要となります。明確なビジョンのもとに規制緩和にどれだけ意欲的に取り組むかということが試されます。補助金要望が真っ先に出てくるようなプランは一次予選で却下されます。指定された後にそれぞれの特区を推進する会議ができ、さらなる規制緩和要求が出てきます。 合わせて6月の成長戦略の改定に向けての各種改革の取り組みは内外企業の投資意欲を喚起する内容になることは間違いありません。