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シンガポールでのTPP閣僚会合が終了しました。この会合で大筋合意がなければTPPは漂流すると危惧されていましたが、結局大筋合意には至りませんでした。
しかし、漂流することもなく妥結に向けての着実な前進があったと評価されています。会合全体の認識と運び方について私からは2点を強調致しました。1つはセンシティビティへの認識と取り組みです。TPPを語るときに元になった経済連携協定であるP4のメンバーからしばしば語られることは、物品の市場アクセスの100%自由化です。これは日本が参加する前、2011年9月のTPP首脳会合によるホノルル宣言を引用したものです。日本が参加する前のことであり、宣言の詳細な意味合いについては関知できないところではありますが、少なくとも文言上に表現されているのは100%にするということではなく、出来る限り関税自由化に向けて努力するということであり、同時にそれは物品以外に市場アクセスについても掛かっている言葉です。物品の市場アクセスとは輸入関税をなくすことであり、物品以外の市場アクセスとは政府調達に外国企業が自由に参加できることであり、その国への投資に対して外国企業が内国企業と差別をされないということであり、中央政府と同様、地方政府に対してもその国の企業と同じ扱いをしてもらうということであります。あるいは市場アクセス以外のルールの分野についても可能な限り自由化の度合いを引き上げるためのルール作りを意味します。新しい商形態であるインターネットでの商取引を扱ったルール、国有企業が外国の民間企業より有利になりすぎないルール、特許や著作権の保護期間のルール、環境や労働に対する多国間条約と通商政策との整合性等、ホノルル宣言は多方面に掛かる自由化の約束です。
12カ国のセンシティビティは物品の非関税化にない国にあっても物品以外の市場アクセスのセンシティビティとか、ルール分野におけるセンシティビティとか、TPPのすべての分野にセンシティビティがない国はありません。私からの主張は、ホノルル宣言は物品の関税に掛かるセンシティビティだけを取り上げているはずはないという点です。各国がそれぞれのセンシティビティを認識しつつも出来るだけ高い野心に向かってそれぞれが努力をしていくという共通認識を持つべきだ、という主張でした。
今までの大臣会合がどちらかと言えば物品のみに偏りすぎていたものを物品以外の市場アクセスやルールとのバランスも大事である。本来のホノルル宣言の原点に立ち返ることを提言し、少しずつその共有が広がってきたと思います。
2点目は大臣会合に至る会議の運営の仕方です。権限を持っている大臣同士が集まるのが決着に向けて一番手っ取り早い。これがアメリカのフロマン代表の考え方です。しかし最初に閣僚会議ありきの設定の仕方はそれに至るまでの首席交渉官以下の会議を形骸化させます。どうせ大臣会合で決めるんだし、我々には権限がないのだからという認識に陥れば事務折衝は全く進展しません。本来、全閣僚が揃う会合は調印一歩手前で開かれるものです。事務折衝が煮詰まらなければ大臣会合は開かれないとすれば、各国は事務方により権限を与え、作業を加速させるはずです。もちろん事務方は交渉の過程で本国の大臣と連絡を取りつつ各国の間合いを縮めていきます。2点目の私からの提案は事務折衝を形骸化させないというものでした。これらの2点はシンガポールの閣僚宣言で共有されたものと思います。
TPPにおける日米の重要性は両国の経済規模にあります。TPP加盟国の経済規模の58%をアメリカが占め、21%を日本が占めています。つまり日米でTPPの経済規模の8割を占めています。しかし、日米の2国間交渉は熾烈なものとなりました。政府と議会のねじれ現象がある米国は与党の最高責任者すら反対の急先鋒に立っています。議会との調整は難航を極めています。一方、ねじれが解消したとはいえ、日本は衆参農水委員会で全会一致の農産品5品目等の聖域化の決議があります。両国とも議会からの制約の中でどうハンドリングしていくかが悩ましいところです。