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中東の緊張が日増しに高まっています。イランの核開発疑惑に対し、国連決議をもって警告を発しているにもかかわらず、イランはウラン濃縮化作業を止める気配がありません。IAEA の査察が入るには入っていますが、うわべだけのものになるのではないかという懸念が広がっています。
危機感を抱いた欧米は一段と制裁を強化していますが、それに対抗しイランはホルムズ海峡の軍事封鎖を宣言しており、さらに対抗してアメリカは軍事行動を示唆しています。
アメリカが一番懸念しているのは、イスラエルがアメリカのコントロールを離れ強硬措置に出るのではないかということです。
イランが核開発を完成させてしまえば核弾頭一発で国が滅びるという恐怖感を募らせるイスラエルは、国の存亡を懸けて阻止する軍事行動に出ると言われています。イランのブラフ (はったり) よりイスラエルの背水の陣の行動の方を、アメリカはより案じています。
イランのウラン濃縮施設は岩盤の地下 70メートルの地中で行われていると言われ、通常の空爆ではダメージを与える事はできません。そこで、岩盤を貫く『バンカー・バスター (地中貫通爆弾)』が相当数必要です。米軍はバンカー・バスターを近隣に集結させているという話もありますが、イスラエルの行動をアメリカが全面的に支持するかといえば、アメリカの言う事を聞かない最近のイスラエルに手を焼いている事も事実です。
核開発を絶対諦めようとしないイラン。国の存亡を懸けてそれを阻止しようとするイスラエル。先進国の中ではイランとも比較的良好な関係を築いてきた日本だからこそできる事があるという評論家の言葉が果てしなく軽々しく聞こえるほど、外交交渉の無力さを感じる深刻な背景です。
自立のために何が何でも核開発というイラン。座して死を待つくらいなら武力行使を決意するイスラエル。自民党政権なら、どうするだろう…一切の隠し事なく IAEA の要求にすべて応えるようイランを説得する、という事でしょうか。
ホルムズ海峡を封鎖するとは報復攻撃の理屈を与えてしまう事になるので、それに踏み切る可能性は少ないと思いますが、封鎖するしないにかかわらず、イスラエルの対イラン感情の暴発をどういう手立てで阻止していくかがアメリカの最大の悩みの種だと思います。
こうした一連の動きと相まって原油や LNG 価格が更なる上昇に転じそうです。
日本の原発は 4月下旬ですべてが定期点検に入り停止しますが、点検後の再稼働のメドが立っておりません。
地域独占と引き換えに供給責任を課せられている電力会社は、化石燃料をフル稼働させてこれに備えていますが、毎年その調達のためにプラス 3兆円が外国に支払われます。その事もあって、昨年 31年ぶりに日本は貿易赤字に陥りました。
日本の再生に必須な経済再生のための経済成長戦略は、その前提としてエネルギーの安定供給が必須です。政府においては、新たな措置により安全が確認された点検済み原発の再稼働ルールを確定しエネルギー不安から脱却させる責任があります。
エネルギー供給が不安定になればなるほど、日本を離れる企業の数は増大します。その結果、輸出力が落ちれば落ちるほど貿易赤字は拡大し、貿易赤字が拡大すればするほど日本が戦後経験した事のない経常赤字に転じます。
それはつまり、国債をフローでは国内で消化できない事を意味し、ギリシャ・シナリオが現実のものとなっていく『Xデー』を意味します。