国会リポート 第223号

甘利明本人が綴る、毎月2回のコラムです。国政で今何がおきているのか解りやすく解説しています。

総 覧

「甘利さん何とかしてよ!このままじゃ日本から企業がみんな出ていってしまうわよ!最後まで残るのは私たち美女 (?) 3人ぐらいのものよ。」

地元のスポーツ大会の会場で中年美女 (笑) 3人組に声を掛けられました。主婦の方々から空洞化の懸念が語られるとは深刻な事態ですが、肌感覚は井戸端まで伝わってきているようです。

「現在の円高レベルの上に電力供給の不安が半年間続いた場合、大手企業の半数近くは海外移転を検討する。」という調査結果があります。

円レートは対ユーロで史上最高値を付け、対ドルでも一時、史上最高値を付けました。日本経済は最悪であるのに円は最高値を付け、一方で政府の経済見通しは大甘。昨年度は実質 4%成長、今年度も第1、第2四半期こそマイナスの見通しでも、最終的にはわずかにプラス。来年度はかなりのプラスの成長との見通しを示しています。

肌感覚では日本経済が崩壊する寸前と感じているのに、政府統計は極めて楽観的。この落差はどこから来るのだろうか?と疑問を持つ方は多いと思います。

直近では 1円円高になるとトヨタは 300億円、日産は 230億円の利益が消失します。基準値は 1ドル 82円です。競争力の一番強い自動車部門でこうですから、輸出産業平均を取れば 90円ぐらいの水準になろうかと思います。つまり今の円高は日本の経済実力を反映していないのです。

一方、ユーロは通貨体制が崩壊の危機に瀕しています。通貨は欧州全体 (イギリス、スイスを除く) で統一。対して、税制や財政は 1ヶ国ごと。体力や技術力が異なるのに、全員両手を縛って泳ごうということから、体力や技術力の劣る選手が脱落をしていきます。

財政の健全性や経済力の差を通貨の切り上げや切り下げで自動調整する装置を縛ってしまっているわけですから、「今回の危機は来るべくして来た。」と言われるのも当然です。

年金受給年齢の引き上げや公務員給与の引き下げなど、財政再建努力に反対するデモが渦巻くギリシャに対して、「遊び呆けていたキリギリスに、働き続けたアリの蓄積をなぜ分けなければならないのだ」というドイツ国民の反発も理解できるところです。

ギリシャ、アイスランドからイタリア、スペインへと財政危機が広がっていけば、それらの国の国債を引き受けている財政健全国の金融機関は不良債権の塊を抱えることになり、金融システムは崩壊します。それを防ぐために EU は 200兆円規模の安定化基金を準備しているところです。

システム危機の最中に円安誘導は望めません。だからこそ円高を武器にした外国資源・エネルギーや有望企業のM&A作戦が重要なのです。

にもかかわらず、旧石油公団の海外資源権益である (株)INPEXや (株)JAPEXなどの政府保有株式を売り払おうという行為は、(外国資本が取得すれば) 一方で外国権益を取得しようと言いながら、他方で外国権益を手放そうと言っているに等しく、ブレーキとアクセルを同時に踏んでる政策に他なりません。

「民主党政権は個人個人が思いつきの政策を外に向かって整合性なく発表している。」とますます不安に駆られます。

 

今週の出来事

 

最近は地元の運動会でも国旗掲揚のセレモニーが多くなりました。いい傾向だと思います。

国旗や国歌の話になると思い起こすのは、当選 2、3回生の頃、竹下登総理に随行して訪米した時のことです。

首脳会談が終わり、米政府国務長官主催の歓迎の夕食会が開かれました。双方の挨拶が終わり、宴もたけなわ、竹下総理が「ただ今からウチの外務大臣がハーモニカの演奏をご披露致します。」と紹介すると、やおら宇野宗佑外務大臣がハーモニカを手に立ち上がり、西部劇の主題歌を演奏しました。

やんやの喝采でその場は大いに盛り上がりましたが、後日、宇野外相に「先日は素晴らしかったですね!」と話し掛けると、「最初は大失敗をしてね…。誰もが一番親しんでる曲と思ってアメリカ国歌を演奏したんだ。そしたら皆大慌てでナプキンを外し、直立不動になってしまって、それ以来幌馬車とか黄色いリボンとかジョン・ウェインの時代の西部劇の主題歌にしてるんだ。」とのこと。

『うーん。国歌に対する敬意の払い方にこれだけ落差があるのか。』

『えーと…西部劇?ネイティブ・アメリカンの末裔もいるよね?』