国会リポート 第207号

甘利明本人が綴る、毎月2回のコラムです。国政で今何がおきているのか解りやすく解説しています。

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民主党の若手議員 16人が会派離脱宣言をいたしました。

同一政党に居ながら別会派を作るなんていう事は聞いた事がありませんし、会派離脱をする際には代表者の了解が必要である事を考えれば、この目論みは実現しないとは思いますが、菅政権にとっては大ダメージであると思います。

あわせて、閣僚経験者の党幹部が雑誌の誌面で公然と退陣要求をするに至っては、いよいよ菅政権も末期症状に陥りました。

予算案自体は衆議院優位の原則に従って成立はしますが、予算関連法案の成立には衆参両院の可決か衆議院での 3分の2 以上の議席による再可決が必要となります。

上記を考えれば予算関連法案が成立する見込みはありません。財政法で禁じられている赤字国債の発行を単年度に限って可能とする公債特例法が成立をしなければ 38兆円の歳入欠陥が生じます。

当面は財務省証券や税制特例のつなぎ法案でしのいでいけますが、数ヵ月後には正念場を迎えます。その時までに民主党が、我々の対案に乗るか、野垂れ死ぬかの選択をしなければなりません。

民主党のほとんどの政策には反対ですが、個人的に 1つだけ民主党の政権下でメドだけはつけておいていた方が良いと思う案件は、社会保障と消費税の一体改革です。

この件で菅政権は協議を呼びかけていますが、そのために彼等自身が早急にやるべき事は、まず自身の大筋の考え方を党議決定をする事です。

自民党は先の参院選の公約で、社会保障の安定的運営のために当面消費税を 10%に引き上げる認識を持つという事を党議決定いたしました。

未だに消費税を上げる必要性を党議決定できない民主党が、自民党と協議をしたいということ自身、責任転嫁です。

我々はリスクを冒して消費税増の必要性を党の意思決定としたのです。つまり、ルビコン川を渡ったわけです。未だ向こう岸に居て、こちら側の自民党に協議を呼びかけても、意を決して川を渡ってくれない限り協議にならない事は理の当然です。

政権を取っていてもこの無責任では、政権を失ったら消費税で泥をかぶる人間など 1人も居なくなる政党であるが故に、彼らが与党である時に道筋だけはつけた方が良いと思っている一人です。

さて、菅政権が突如宣言した TPP 加入問題ですが、先般自民党で開いた会議に際し、私は「この枠組みが今の加盟国の枠を超えないのであるならば、慌てて入る必要はない。しかし、この枠組みがアジア太平洋の新しい枠組みにまで発展していくとするならば最初から日本の都合の良いルールを作るべく立ち回った方が良いと思う。ただしそうであっても、この政権で大丈夫か、この民主党政権にそれをやらせたら日本が丸裸にされるのではないか、との危険性を感じる。実はそこが一番心にひっかかっている点だ。」と申し上げました。

自民党内では次第に、現時点での参加は見合わせた方が良いという流れが強くなりつつあります。

1月のダボス会議で菅総理が「日本は第三の開国を目指す。」と発言して拍手を浴び悦に入ったと報道されていますが、私が予算委員会で質問した通り、日本が開国するという事は日本が世界より閉鎖的だという自虐的発言になります。

通商事案でいえば日本は世界で一番開かれている国であり、貿易相手国の門戸を開放させるのが課題であるにもかかわらず、自らが満座で懺悔するとは、なんと国益に反したパフォーマンスか。かつて鳩山総理が国連で行った「環境優等生の日本が、どの国もやるつもりがない CO2 の 25%削減」という自虐的目標を掲げる発言と相通ずるものであり、拍手の裏の冷笑を感じ取れないアホな政府という事になります。

 

今週の出来事「明日は明日の風が吹く?

 

久しぶりに、安倍晋三・麻生太郎両元総理と懇談いたしました。話題はもっぱら政局の行方です。

それぞれが各々の見立ての政局感を披瀝いたしましたが、なかなか核心には至りません。色々と深読みをしてみましたが、結論は「こちらが深読みをしても、実は向こうが思い付きで行動していたら意味がないんじゃないか?」という事になりました。

通常、総理大臣の執務室には半年先ぐらいまでのカレンダーが掲げてあり、総理はそれを眺めながら政権運営を、それぞれの部署の責任者と想定しています。

ところが、菅総理の執務室にかけてあったカレンダーは「日めくり。」

…今日を乗り切る事しか考えてないんだね(苦笑)