国会リポート 第206号

甘利明本人が綴る、毎月2回のコラムです。国政で今何がおきているのか解りやすく解説しています。

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「先生、石原伸晃です。」

先週の月曜日 (2011年 1月 31日)、地元を回っている私の車に、石原幹事長から電話がかかってきました。

「はい、何かありました?」

「実は、予算委員会で政策エリア別に専門家を立てようという事になりまして、ぜひ先生に経済分野で党を代表して質問に立っていただけないか、という事になったんです。」

「分かりました。で、いつですか?」

「実は…明日なんです!」

時計を見ると 14時半でした。これから上京して質問を作って今日中に質問通告をしなければなりません。『まぁ、どうにかなるだろう』という事で了解いたしました。

それからが大変!地元の日程をもう一つこなし、慌てて上京すると 16時半。夜、東京で予定されていた会合の一つを代理出席とし、自分が主賓のもう一つの会合は 1時間半で退席し、大慌てで質問作りにかかりましたが、政府側へ質問を渡せたのは 24時を回ってしまいました。

今回の質問で留意した事は、政府の問題箇所を指摘するだけでなく、『我々なら、こうする。』をきちんと示す事でした。

指摘した政府の経済政策の問題点は、

  1. 内需主導型経済運営の問題点。
  2. 供給サイドに力点を置かず需要サイドに置いた成長戦略。
  3. 成長戦略に於ける生産性向上の重要性の認識の無さ。
  4. 法人税を減税する代わりに他の法人課税を増税する事の矛盾。
  5. 世界の成長センターたるアジアの成長を取り込む設計図面の欠落。
  6. 企業の海外移転計画の急増と内部留保の急増とが現政権の政策運営の不透明性と関わっているという点。
  7. 科学技術政策重視と言いつつ科学技術予算の偽装計上。

等々です。

私が、経済産業大臣の時作った経済戦略は、人口減少の中で消費を始めとする内需が減少していく環境では、より多く外需を取り込まないと名目 3~4%の経済成長は不可能という点に鑑み、世界の成長センターたるアジアの 2桁成長をどうスムーズに日本に取り込むか、つまり外需の内需化と言える政策でした。

そのために次の三本柱があります。

一つ目の柱は東アジア各国の経済開発プランを策定し提案するシンクタンク・通称 ERIA (エリア) を作り、そのプランに日本が ODA を乗せ、各種日本企業チームがインフラ整備に貢献する、というものです。

二つ目の柱は海外市場でのボリュームゾーン (低価格の普及品で、かつ高品質を求められる製品市場) へのアプローチです。

普及品の生産拠点は最も生産コストの安いところに置き、研究開発および高付加価値品の生産拠点を日本とする。そして、海外市場と日本拠点とを資金移動でボーダレスとする。つまり海外の純利益は日本の法人税との差額を納めなくても良いようにし、資金が日本に還流しやすいようにする事です。

三本目の柱は、日本国内で高付加価値製品やサービスの開発が継続的に進むように、アジアの高度人材を日本に招聘するプランです。

これらはいずれも私の時代に実行に移しましたが、事もあろうか民主党政権で事業仕分けにあってしまいました。

民主党の成長戦略は世間受けしそうな断片的個別政策ばかりで、戦略的に繋げていく設計図面を事業仕分けで棄損してしまった点を指摘しました。

うなずきながら感心して耳を傾けている閣僚たちを見るにつけ、一体この政権はどこで政策が組み立てられているのか、ますます判らなくなりました。

 

今週の出来事「陽なたぼっこ?

 

自民党の総務会は、政策をはじめ党としての意思決定をする最終決定機関です。

そのためか会長代理や副会長には若手が就任しますが、委員はベテランの実力者が集います。加藤紘一元幹事長・中川秀直元幹事長・野田毅元自治相・高村正彦元外相などなどです。

珍しく早めに出席すると、高村さんがぽつんと座っていました。

「高村先生、最近どうですか?」

「う~ん、窓際族が定着しつつある。」

「私もこの一年、大人しくしていましたが、この辺で表へ出ようと思います。頑張りましょうよ!」

「うん。そろそろ陽の当たるところに出ようか。」

「そうですよ!」

「あっ!でも窓際が一番陽が当たるんだよね。」

「…。」