国会リポート 第87号

甘利明本人が綴る、毎月2回のコラムです。国政で今何がおきているのか解りやすく解説しています。

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日銀による量的緩和政策の解除が決定しました。

日銀はデフレ脱却のために金利を限りなくゼロの状態に誘導してきました。これ以上下げようのないというところまで来てもデフレ脱却の兆しが見えて来ないため、最後の手段として無理矢理に市中に必要とされる以上の通貨を流すという手法をとりました。銀行の保有している国債や株を日銀が買い上げ、その代金を 5 兆・10 兆単位で銀行に渡す。受け取った銀行は利息を稼ぐために無理をしてでも貸し出し先を探す、つまり力ずくでデフレ脱却の道筋を付けるという手法です。

しかし同時に金融の市場機能を縛ってしまうマイナス面もあります。本来、お金は投資効果の高いところに流れ、効果の薄いところには流れにくくなる事を通じて構造改革を促します。そういう自然のお金の流れを人為的に変更させるやり方ですから、いつまでも量的緩和を続ける訳にはいきません。ただ、それをいつ判断するかが大きな問題です。

月例経済報告の説明に来た日銀の職員が 「私は日銀の政策委員ではありませんし、金融政策の決定には影響力のない人間ですが…」 と断って始めた話は、いかに解除の要件が整っているかの説明に終始しました。『ははぁ、日銀は何としても解除する気だな』 と感じ、夜ごと取材に来る番記者達に 「(解除は) やると思うよ」 と言っていましたが、その通りになりました。後でマスコミから感想を求められた小泉総理は 「日銀の判断を尊重します」 と答えました。私も判断は妥当だったと思う、とコメントしましたが、「もうそろそろ」 「いや、まだ早い」 と、日銀と官邸と党がやり取りを交わす事によって、市場が実施の影響を少しずつ織り込んでいく事により最小限のインパクトで実施する事が可能になります。

金利を上げる前段とも言える量的緩和解除は、債券価格を上げ株価を下げる影響を及ぼすはずですが、キャッチボールをしながら織り込んでいったため、実際に施行に及んだ際にはマーケットは織り込み済みという事で、むしろ金融政策を正常に戻したという事を評価し、逆に株価は上がるという反応を示しました。市場と対話をするという事がいかに大事かの証査と言えましょう。

金利が上がると預金者には嬉しい話ですが、ローンを抱えている者にとってはありがたくない話です。金利が 1% 上がると政府の国債利払い費は 1.6 兆円増加します。景気が良くなれば税収が増え、同時に金利が上がれば利払い費も増える、ここが頭の痛いところです。自民党政務調査会による歳出歳入一体改革の最終取りまとめは 5 月ですが、相当な知恵を出さないといけません。

 

今週の出来事「根回しが大事

 

先般、来日中のアゼルバイジャン国・アリエフ大統領夫妻一行歓迎の小泉総理主催の夕食会が官邸で行なわれました。私は、日本・アゼルバイジャン友好議員連盟会長として、大統領の隣に座りました。

大統領夫人は素晴らしい美貌とスタイルで、総理が思わず 「スーパーモデルみたいだね!」 と言ったほどですが、実は元ファッションモデルで昨年 11 月の国政選挙で初当選したばかりでした。「大統領夫人は小泉総理を上回る得票率だったんですよ」 と私が言うと、大統領はすかさず 「90% 以上の得票率で、変わり者以外は全員、家内に投票しました」 と嬉しそうにフォローしました。

夫人は文化芸術に造詣が深く 「日本の歌舞伎を是非母国で上演させたい。言葉は分からないけれども、歌舞伎は目で感じ耳で感ずるものだと思います」 と発言されると、小泉総理は立ち上がらんばかりに 「そうなんだよ!目で感じ耳で感ずるものなんだ!あなたはたった 4 日の滞在でそこまで日本文化を理解できるなら、4 年日本に居たら日本の国会議員になれるよ」 と大感激の面持ちでした。

「でも、私の選挙区から出るのだけはやめてください」

私が言うと、アリエフ大統領は大笑い。一挙に場が和みました。