国会リポート 第447号

甘利明本人が綴る、毎月2回のコラムです。国政で今何が起きているのか解りやすく解説しています。
※本記事の無断転載を固くお断り申し上げます。

総 覧

「物価高にはベースアップで」経団連十倉会長の言葉は岸田政権が目指す姿を一言で表現しています。

資源高に円安が加わり、物価は3%前後の上昇を続けています。アベノミクスでデフレではないという状況は作りましたが、デフレを脱却する、つまりデフレに戻ることはない状況にはまだ至っていません。デフレを脱却した国(米・欧)がとる物価対策とデフレの脱却をしていない国のとる物価対策は同じではありません。そこを混同して円安を是正するために利上げをすべきだという方がいますが、全くの間違いです。

 物価対策として採るガソリンやガスへの補助は一時的な対策であって、いつかはフェイドアウトしなければなりません。そのためには物価が2%、3%上がろうと賃金はそれを超えて上がっていくという経済構造を作ることが目指すべき姿なのです。そこを、その本質を総理には常に発信してもらいたいと思います。

 健全な経済は、物価は毎年2%前後上がって行き、そして賃金は3%以上上がって行く。これが連鎖することが経済成長の源です。要は下請け中小企業も含めて、物価上昇を超える賃上げをどう構造的に構築していくかです。下請け企業の賃上げや資材高も織り込んだ下請け代金が支払われ、生産性向上で吸収できない部分は「価格転嫁」をし、その上で物価を超える賃上げをする。キーワードは価格転嫁構造を作ること。それを継続的にできる競争力を担保するのが投資でありイノベーションです。私が主導して半導体戦略を打ち立てましたが、デジタルにトランスフォームするということは国民生活や産業活動の隅々にまで半導体が入っていくということです。政府が半導体戦略の決意を表明したとたん、世界中から半導体投資が殺到しました。「世界は二分される。半導体を供給する国とされる国に」。モノづくり大国日本は是が非でも供給する側であり続けなければなりません。そのためにもイノベーション投資が必要です。

 さて、先日台湾の台日科学技術対話の基調講演を要請され訪台しました。

 その際、蔡英文総統と1時間会談を行いました。私は最先端半導体企業のラピダスの推進者の一人ですが、台湾側はTSMCとの競合を懸念しているようです。TSMCに限らず世界の半導体メーカーは大型新規参入を懸念しているようですが、まだ建物も出来ていない企業がライバル視されることは光栄なことかもしれません。しかしTSMCの「最先端品の不良品比率を極小にし、大量に供給出来る能力」はラピダスにはありません。ラピダスが目指すのはカスタマイズ化へと向かう先端半導体に短時間で設計、開発、製造のサイクルを適合させることです。はやりの言葉で言えばアジャイルなフットワーク企業になることです。

 最新の話題はNTT法の廃止を含む、抜本見直しがスタートしたことです。その座長職は以前より打診されていました。かなりの力技ですが昭和レトロの規制行政が未だ残っていることが不思議です。NTT法は簡潔に言えば四つの義務しか書いてありません。
 ①政府が1/3の株を持つ。
 ②固定電話のユニバーサルサービスをする。
 ③開発した技術は開放する。
 ④役員の選任や事業計画は総務省の許可がいる。
以上の4点です。「中国企業に買われる」と心配する向きがありますが、他の通信事業者も同様に電気通信事業法や外為法の見直しで対応すべきことなのです。投資額がひと桁違う世界のプラットフォーマー(GAFAM)はクラウドやデータセンターを始めとするコンピューティングサービスから通信の世界へもサービスを伸ばしてきます。日本の情報通信事業者は、国内のコップの中の争いから世界と戦うモードにならなければ生き残れません。ソフトバンクは半導体設計のベースたるアーム社を上場させ、NVIDIAを始め世界トップの半導体産業との連携を図り、KDDIはスペースXとダイレクト通信システムに挑戦していきます。NTTがNTT法のしばりの中で戦うのは、投資額がひと桁違う横綱に十両が手を縛られて挑戦するようなものです。次世代通信ネットワーク「IOWN」でゲームチェンジャーになるかもしれないNTTには、あらゆる不要な規制を取り払いGAFAMに挑戦してもらいたいと思います。

 

今週の出来事「アイ・アム・サムスン?」

「(今週の出来事)たまには無くても良くな~い!?」「良くな~い!?」