国会リポート 第393号

甘利明本人が綴る、毎月2回のコラムです。国政で今何が起きているのか解りやすく解説しています。
※本記事の無断転載を固くお断り申し上げます。

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 参議院自民党前幹事長の吉田博美さんが亡くなられました。同い年でもあり早すぎる逝去に心が痛みます。親分肌で情に厚く、政治的洞察力の優れた人でした。年に2回ほど会食をし色々な話をして来ましたが、印象に残ることがいくつもあります。「私は99%は安倍総理です。残りの1%は親父(青木幹雄元参議院自民党幹事長)です。しかしこの1%は時には全てに優先します。」昨年の総裁選では悩み抜いた末にこの論理に従ったのだと思いました。「汗は自分でかきましょう。手柄は人にあげましょう。」は竹下登元総理の口ぐせです。吉田さんは泥は自らが進んで被り、手柄は仲間にという人でした。参議院選挙に4期目の出馬をするか否かの判断がひと月、またひと月とずれ込んでいく中で吉田幹事長の参議院をまとめていく要としての存在が浮き彫りになってきました。まさに余人をもって代えがたき存在であったため、当時選対委員長を務めていた私は側近の石井準一議員を通じ、当選を保証される「特定枠」での出馬の感触を内々に打診しました。石井さんを通じての返答は「党内の調整役の自分が我田引水の様な恥知らずな行為をするなら、死んだほうがましだ。」との返答でした。予想はしていましたがやっぱり吉田さんだと感銘を受けた瞬間でした。長い間患っていた腰痛の原因がわからず、あらゆる病院でも原因が特定できず悶々とされていましたが最後に行った脳腫瘍の手術を克服できなかったようです。惜しい人を亡くしました。心よりご冥福をお祈りいたします。

 さて先日アメリカの第三四半期のGDP成長率が市場の予想を上回る年率換算1.9%でした。併せてFOMCが0.25%の利下げを発表しました。三会合連続の利下げです。アメリカ自身が景気後退への備えをしていることだと思います。日本側の景気判断が極めて重要な局面に差し掛かっています。「雇用と賃金の伸びは堅調」というのは内閣府の月例経済報告の枕詞ですが地合いとしての消費が強いとは言えません。併せて世界経済が下方シフトへとベクトルが向きつつあることに注意をする必要があります。企業家と消費者のマインドが弱含みであることも留意が必要です。政策で下支えをしながら、いかにオリパラに繋げていくか。加えてオリパラ以降の需要の低下にも今から備える必要があります。民間ビル需要等バックオーダーはオリパラ以降も抱えてはいますが、次第に先食いが続いています。企業や家計が守りに入っていることに留意が必要です。需要を増やし、投資を増やす策が求められます。企業の内部留保はリーマンショック以降自己防衛に走った結果、安倍政権発足の時点で相当な額に上りました。

  問題は投資環境が整備された以降も史上最高を更新して積みあがっていることです。個人金融資産のうちの現預金は1兆円にならんとして、企業の内部留保の内、現預金は50兆円積み増し、240兆円になりました。一方で世界の経済システムは100年に一度の大転換を起こしています。デジタル経済であり、データ経済です。「物を作って売っている企業」は、物を中核とした「サービスを売る会社」に変貌していきました。社会システムの変革に乗り切れない企業は淘汰されつつあります。社会システムの変革に取り残されないビジネスモデルの構築のための投資が今こそ必要です。貯蓄から投資へ、二次元ビジネスモデルから三次元ビジネスモデルへと、今こそ日本経済が問われています。

 

今週の出来事「♪バカ言ってんじゃないよ~」

 今年も東京国際映画祭のレッドカーペットに招待されました。12年前、私が経産大臣だった時に「しょぼくれた映画祭からアジアの祭典に」、「六本木ヒルズにランウェイを作ろう」と今の形にしました。「東京国際映画祭のレッドカーペットを歩くことがアジアの俳優としての証」を目指しましたが、予算がなく現実はそんなに甘いものではありませんでした。そんなことから、毎年招待を受けていますが、このランウェイから毎年有望な新人が育っていることも事実です。

 今年の一押しは上映中の「タロウのバカ」で菅田将暉さんや仲野太賀さんを共演者に主役のタロウ役を演じたYOSHI君です。16歳のアマチュアが映画初デビューで大物俳優を率いて、いきなり主役。

 ところで、最もランウェイに相応しい政治家といえばアキバの帝王麻生太郎副総理ですが、今年は「タロウのバカ」ですから、お誘いするのはヤメました。