国会リポート 第333号

甘利明本人が綴る、毎月2回のコラムです。国政で今何が起きているのか解りやすく解説しています。

総 覧

 中国・習近平主席の最大の政治イベントである一帯一路政策のフォーラムに世界130ヵ国の政府関係者が出席しました。中国が資金を供与し(ほとんどは貸付ですが)、陸と海の現代版シルクロードを構築すべく、そのルート上の各国のインフラを整備するという構想です。
 
 表題から見れば賛同できるものですが、その裏には別の思惑が隠れていると懸念されています。このルート上のスリランカは年率6%という中国の高利の金を借り受けて、港湾を整備しましたが、返済が適わず、中国は港湾の99年間の中国側への貸与を代替案として提示してきました。6%の高利で貸せば10年で債務は2倍近くに膨らみます。大規模プロジェクトは当然返済不能に陥ります。ちなみに日本が先導するADB(アジア開発銀行)の貸付利息は0.5%と承知しています。中国主導のAIIB(アジアインフラ投資銀行)が資金を供与するなら、当然これに倣うべきです。
 
 スリランカの港湾がほぼ一世紀の間、中国の統治下に置かれるということは、事実上中国の全面コントロール下に置かれるということです。目的は明確、中国経済のみならず中国海軍の拠点港にするということです。中国帝国主義の覇権ルート作りと懸念する声が出ているのもそのためです。
 
 南シナ海からインド洋を経由し、アラビア海からアフリカに至るまでのルートの海路を整備し、港湾を整備する。アフリカのジブチの港湾整備プランでは最初から中国海軍の母港となることが前提になっています。中国が資金を貸し付け、中国企業が受注し、その企業が連れてくる中国人が仕事をし、現地には何の雇用も生まれず、完成後にはその中国人労働者はそこに置きざりにされ、やがてその労働者は現地人の商売を奪っていく。その種の報道が頻繁にされている以上、一帯一路プランの透明性・公正性・内外無差別のルールについて日本から出席した二階幹事長が注文をつけたのも当然です。しかもこの一帯一路プランにはシルクロードには関係のない逆方向への太平洋側へのルートも含まれています。中国が大国として、世界の発展を担っていく意思があるなら、世界に開かれた公正・透明なルールの下に各国と協調して進めていくべきです。そうでなければ、中国帝国主義の覇権構想との懸念は消えないはずです。
 
 このリポートは中国関係者も見ていると思いますが、私は真に中国が世界のリーダー国の一つとして世界に貢献する国になってもらいたいと思うからこそ辛口の注文を付けているのです。
 
 その大事な祭典の初日に北朝鮮は弾道ミサイルを打ち上げ、習近平主席の顔に泥を塗る行為を演じました。祖父 金日成主席や父 金正日総書記なら絶対しないであろうという行為をする金正恩国務委員長は実は、まっしぐらにただ一つの目標に向かっています。それは核弾頭を乗せた大陸間弾道弾ICBMを完成させ、アメリカに核ミサイル保有国として認知と敬意を払わせることです。そうなってしまえば、後はやりたい放題。日本から謂れのない賠償金を取ることなど朝飯前。あらゆる恫喝外交を展開していきます。
 
 安倍政権は常に対話と圧力の必要性を強調してきましたが、金大中及び盧泰愚両大統領によって外交努力という美名の下に採られた対話のみの太陽政策が、今日、北朝鮮のミサイルや核爆弾の資金源になってしまったということには痛烈な反省をしなければなりません。中国やロシアの側に立てば、アメリカ帝国主義の防波堤として北朝鮮には自分達側の陣営として引き続き今後も存続してもらいたいという本音があります。だから意を決した経済制裁には及び腰なのです。そういう中で親北政策の文在寅政権が韓国で出来たことは事態をより一層複雑にしています。中国やロシアが最終的な経済制裁に踏み切る決意が遅れれば遅れるほど事態は深刻になります。

今週の出来事「痛し痒し?」

「中国の乞食は皆、首からQRコードのプレートを下げているんですよ」と、あるIT企業の社長から写真を見せられました。電子決済システムが進む中国では地方都市に至るまで現金流通が激減しています。タクシーの料金もお店の勘定も全てスマホによる電子決済。乞食に小銭をあげる空缶の代わりにスマホで相手のQRコードを通じてお金を恵むシステムです。

偽札が横行しているため、現金の信用度が低く、それもあって電子マネーが加速しています。お陰であらゆる決済のスピードが圧倒的に早くなっているようです。 逆に日本は現状(現金)の信頼性が高いが故に次世代の改革が遅れるという皮肉です。

とすると俺の後継者の改革は遅れると云うことかぁ。(笑)