国会リポート 第329号

甘利明本人が綴る、毎月2回のコラムです。国政で今何が起きているのか解りやすく解説しています。

総 覧

 トランプ政権は閣僚人事が大幅に遅れ、副長官クラスに至ってはどのポストも人選が進んでいません。翻って、中国は習近平体制が一層強固になり、李克強首相はいよいよ孤立化していきそうです。ヨーロッパに目を移せば、ブレグジット、イギリスのEU離脱は今月末にも離脱通知が発出され、具体的な作業に入っていきます。1973年のEC加盟以来、通商交渉権は個別国からEU本部に移っており、EU離脱に際しては通商部局の設置から始めねばならず、二年間の離脱手続き期間ではとても間に合うとは思えません。本年EUにおける主要国の国政選挙は極右勢力が伝搬して行くとの危機感はありましたが、最初の選挙であるオランダは穏当な結果となりました。フランスの大統領選挙におきましても、極右の候補者ルペン氏は少なくとも決選投票では可能性はほぼないという調査結果です。この状況が続けば、ドイツの総選挙でも移民政策に寛容なメルケル首相への批判は限定的なものになりそうです。G7の首脳が一新する中、メルケル首相に次いで最古参の安倍首相は、戦後初めて日本の首相が世界のリーダーシップを担うチャンスを迎えそうです。米独首脳会議が行われた際、メルケル首相から差し出された握手を無視し、目を合わせようとしなかったトランプ大統領の対応を鑑みれば、トランプ大統領と最もケミストリーが合う安倍首相がトランプ大統領を立てながら、事実上のG7のハンドリングをしていくという、日本政治史上初の演出もかなり現実味を帯びてきました。 

 さて、先々週超党派の議員団で訪米をしてまいりました。12人の下院議員、5人の上院議員、6つのシンクタンク他、政府関係者、国際機関等との会談です。私が通商・投資に関し、中谷前防衛大臣が国防安全保障に関し主査を務め意見交換をしてきましたが、シンクタンクはもとより上下両院議員からもTPPはアメリカにとって必須、TPPをこのまま終わりにしてはもったいない、という意見がかなりありました。トランプ大統領は対中国に対し、「知財を盗み、技術移転を強要し、違法な輸出補助金を使い、不公正な貿易をしている」と非難しています。TPPは関税の自由化率を思い切って引き上げていこうという野心的な目論見ばかりが目立ちますが、実は公正で透明なルールをアジア大洋州標準から世界標準としていこうという目論見がさらに重要な政策目標です。まさにトランプ大統領が抱いているような懸念を払拭し、投資をする際の予見可能性を高めていく措置です。シェアを拡大する電子商取引の改善ルール(ホスト国へのサーバー設置義務を課せない)や、政府調達の外資への参入機会の拡大、国有企業への規制を通じて民間企業とのイコールフッティング等々、まさにトランプ大統領の懸念を払拭するルールの敷設なのです。 

 国が進化するに従って、通商の赤字黒字の分野は変化していきます。かつて、世界の工場といわれたアメリカは戦後そのポジションを日本に奪われ、日本は中国に、そして今中国はそのポジションをベトナムをはじめとする東南アジアに奪われようとしています。40年前と同じ形態の製造業を無理やりにアメリカに引っ張ってきても、高い賃金ではメキシコには勝てません。進化形の製造業やアメリカの強みである金融、保険、知財、R&D、投資ロイヤリティ、情報処理、さらにはオペレーションシステムと一体なった進化形システムこそ、先進国が向かうべき姿なのです。アジア全体では向こう十数年の間に民間航空機の需要は、新規・代替を合わせ15,000機に上り、インフラ需要は2,800兆円に上ります。LNG需要は今の3倍に。広大な需要が待ち構えています。外資としてのアメリカ企業が外資規制や金融保険規制、政府調達規制、国有企業優遇とどう立ち向かうかの問題なのです。

今週の出来事「ベリー・ドメスティック」

1)神楽坂のお茶屋さんにて。

「この辺も中国人の観光客は多いんですか?」

「ええ、近所に脱税のお店が出来てから特に。」

「脱税の店?!免税店じゃないの?」

「そうそう、ダーティハリーの店です。」

「???」

「それを言うならデューティーフリー!」 

 

2)トランプ大統領のメンツを立てつつ、TPPの良いところを理解してもらうために名前変えたほうがいいなら、「トランス・パシフィックでなく、トランプ・パシフィックでもいいんだけど」と民主党の下院議員に言うと、大笑いをしながら「面白い!そのジョークを俺にくれないか。」と言われました。

翌日、共和党のTPP賛成派の下院議員と話をしていると「大統領の理解を得るためにこれはトランプ・パシフィックだと言ってるんだ」と。 
日米考えることは同じなんですね。