国会リポート 第323号

甘利明本人が綴る、毎月2回のコラムです。国政で今何が起きているのか解りやすく解説しています。

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 アベノミクスの新3本の矢は 1)現在の500兆円のGDPを2020年頃までに600兆円にする強い経済 2)夢を紡ぐ出生率1.8の実現 3)介護離職ゼロにする社会保障の充実です。

  強い経済は旧来の3本の矢、なかんずく成長戦略を強化して生産性革命を起こす。新2本目の矢は結婚を予定しているカップル、あるいは既婚者が予定している子どもの数を実現するための障害物を取り除くことです。保育施設をさらに10万人拡充し、予算を確保しつつ幼児教育の無償化を図る。先週、国家戦略特区東京地区会議において荒川区で全国初の都立公園内保育所の認可が下りました。働きたいが子どもを安心して預けられないお母さん方に朗報です。子どもたちは都立公園を保育所の園庭として使えることになるでしょう。安倍内閣になって女性の就業者は100万人増えましたが、事情が許せば働きたいと思っている女性はなお300万人います。この人達に仕事と子育て介護等と両立できる環境を作っていきます。

 3本目の矢は正に親族の介護のために仕事を辞めたり、仕事を変えたりしなければならない人達への救援策です。地域包括ケアシステムで軽度な人達は家庭内介護やグループホームを地域ぐるみでバックアップしますが、依然介護施設は不足しています。場合によっては国有地を安く貸し出し、民間が介護施設を建てることも可能にしていきます。介護人材の確保と処遇の改善も引き続き急務です。さらには93日間取れる介護休業も使い勝手が悪く、最初の1日でも取れば連続して権利行使をしないと93日分が1回で終わってしまいます。分散取得の仕組みに変えていくことが急務です。また非正規労働者が介護休業を使えるようにすることにも取り組んでいかなければなりません。

 アベノミクス新3本の矢は成長の成果を感じていない方々に子育て支援や介護支援を通じて安心を培うことです。新1の矢と2・3の矢との関係は「成長と分配の好循環」です。経済成長の成果を隅々に分配し、培った安心が消費を支え、それがさらなる成長を促し、分配の原資を作る。

 「安倍内閣は社会主義経済的でないですか?」と質問を受けました。「安倍内閣の目指す資本主義経済はどんなものですか?」

 記者会見でのこの質問に私は安倍内閣の経済政策は「瑞穂の国の資本主義」ですと答えています。言い換えれば株主資本主義と言うよりステイクホルダー資本主義、公益資本主義ともいうべきものです。会社法では会社は誰のものかと問われれば、株主のものというのが正解でしょう。しかし、ステイクホルダー資本主義では会社は株主のものであると同時に、従業員のものであり、よき取引先が支え、地域社会と共存する。もちろん優秀な経営者は必須です。つまり、マルチステイクホルダーと良好な関係があってこそ存在する生命体なのです。A winner takes all.(勝者が根こそぎ獲る)ではなく、A winner takes most.(勝者が一番多く獲る)。公益資本主義とも呼べるものこそ瑞穂の国の資本主義なのです。

 かつて、経済産業省が時代を超えて存続する会社の秘密を探るという調査がありました。アメリカで長きにわたって存続しているG・Eやデュポン等、名だたる企業です。結論は時代を超えて生きてきた会社はその経営理念に「世のため人のため」という社是があることがわかりました。株主資本主義の最たるアメリカでそうだったのです。

 近々、慶応大学の主催するセミナーで新3本の矢の成長戦略について講演をする予定です。その原稿をホームページに掲載をしますので我々が目指す経済社会日本、それは則ち瑞穂の国の理念をかかえつつ「日本を世界で一番イノベイティブな国にしていく」ことであり、その道程がお分かりいただけるかと思います。

今週の出来事「ワイルドカード?」

 閣議の際に全閣僚が起立して総理を迎え、その後着席するテレビでお馴染みのシーンは手前の控室での映像です。先日、席に着くなり総理が

「甘利さん、最近髪黒くなって来てません?何かつけてるの?とか聞かれるでしょ?」

「そうなんですよ。染めるのを止めたら地肌の調子が良くなって黒いのが増えてきたみたいなんです。トレードマーク(白髪)が変わるのも困っちゃうんですけどね。」

 アベノミクスの金融緩和は良い副作用として、過度の円高が是正されましたが、染めるのを止めたら評判の良い白髪が黒くなって来たってどう評価したらいいんだろう?

 

 その安倍総理主催の新内閣懇親食事会が公邸で開かれました。予定の時間を1時間オーバーするほど和気あいあい。締めの挨拶は例によって麻生副総理。

「皆さん、年明けは早々から国会が始まります。(正月気分の)気を引き締めてくれぐれも失言には気をつけて下さい。(笑)」(一同爆笑)

「あんたにだけは言われたくない。(笑)」(某閣僚)