総 覧
会期延長がささやかれている通常国会後半の注目案件はTPPの妥結と安全保障法制と骨太方針です。骨太方針とは総理を議長とする経済財政運営の司令塔・経済財政諮問会議が策定する経済財政運営と構造改革に関する基本方針です。これに基づいて経済再生プランが実行され、財政再建の道筋も示されます。
安倍政権には総理をトップとする2つの司令塔組織があります。一つは外交安全保障の方針を策定する国家安全保障会議、そしてもう一つは経済財政運営の方針を策定する経済財政諮問会議です。前者の事務局長役は官房長官が、後者は私が担当します。6月末までに各省調整、党内手続きを踏まえ、骨太方針を策定するため、毎週諮問会議が開催をされています。15年以上続いたデフレから脱却をする最後のチャンスと捉えて今回の骨太方針は経済再生と財政健全化のための一体改革です。どちらかと言えばこれまでの政府の財政再建に対する姿勢は歳出削減ありきの発想でした。財政再建は色々な対応のベストミックスが財政健全化を必然的に呼びこむように綿密な設計をすることです。
今回の経済再生と財政健全化の一体改革の意味するところは「経済再生なくして財政再建なし」の哲学です。それはすなわちデフレ経済下では絶対に財政再建はできないということです。経済規模が小さくなっていく中で無理矢理に歳出カットを続けていけば、税収規模はそれが原因でより小さくなり、さらなる歳出カットの必要性を呼んでしまうということです。IMFの勧告を受けて厳しい歳出カットに取り組んだギリシャはそれが原因でさらに税収が減り、さらなる歳出カットを余儀なくされ、我慢すればするほど更なる我慢を要請されるという悪循環に陥りました。財政再建に必要なのはまずは成長戦略なのです。成長戦略をしっかり実行し、経済規模を大きくしていく中で歳出カットのプランを策定していく「成長なくして再建なし」の思想を貫くことです。
今回諮問会議の民間議員が提案している「歳出カットから新たな税収を生む」という考えは従来の発想からみれば荒唐無稽です。しかし、単純な歳出カットはそれ自身が経済を下押しし、新たな歳出カットを要求するということは肝に銘じるべきです。歳出を合理化するやり方を単純なカットではなく、「公共サービスの産業化」「合理化へのインセンティブ導入」「ベストプラクティスのヨコ展開」等を通じて「我慢の改革」から「工夫の改革」へと構造転換していくことです。民間委託ができる業務があるならそこから効率化や新たな需要が生まれ、税収が生まれてきます。「構造改革を実施していったところには新規政策が優先的に採択される。」「A市が成し得た改革努力を同規模、同背景のB市にできないはずがない。」知恵と工夫の構造改革が結果として効果的な歳出削減を、そして財政再建を呼び込みます。
先般の諮問会議で財政再建5カ年プランは3年目にプライマリーバランス赤字幅1%程度を目安とすると初めて総理指示が成されました。そして、それまでは経済再生に優先して取り組む。2017年には待ったなしの消費税引き上げが予定されています。その時にはデフレを脱却したという経済環境を作っておくことが必須です。1年1年定量的な削減目標を作るか、3年間の構造改革プランを経済再生・財政再建一体改革のベースとするか、残されている期間に熱い議論が交わされていきます。
さて、TPPの妥結に向けてスケジュールは最終の大詰めに入ってきました。先般、上院を可決通過したアメリカのTPA法案(大統領に交渉権限を一括して委ね議会は合意結果にYESかNOだけで答える)はより可否が拮抗する下院の審議へと入っています。下院歳入委員長のポール・ライアン議員は下院での可決の自信を示しましたが、票数は極めて拮抗していると報道されています。賛成予定議員のうち数名の当てが外れたとしても可決できるだけの票数が確保されなければ採決に入るのはかなり危険です。アメリカ政府挙げての説得工作が続いています。