国会リポート 第275号

甘利明本人が綴る、毎月2回のコラムです。国政で今何が起きているのか解りやすく解説しています。

総 覧

TPP(環太平洋パートナーシップ協定)に関するインドネシア・バリでの閣僚会合及び首脳会合が先週行われました。最大のハプニングはオバマ大統領のドタキャンです。そしてそれを救ったのが安倍総理の素早い決断でした。米国のフローマンUSTR  代表が、オバマ大統領が欠席をし、その代理をケリー国務長官が務めると発表した際、一見静かに見えた会場も出席閣僚に動揺が走りました。何事もなかったかのように議事を進めようとした米国ですが、各国の戸惑いは手に取るようにそれぞれに伝わっていきました。会議の最中に私は鶴岡首席交渉官と打ち合わせをし、日本はいち早く総理の出席決断を求めることと致しました。合わせて閣僚会議としてモメンタム(勢い)を維持することを提案し、確認されました。午後の会議でいち早く安倍総理の決断を伝えるや直ちに、アメリカ及びニュージーランドから歓迎の意が表され、バリ会合は失速せずに済みました。

首脳会談における安倍総理の発言はこれまた素晴らしいものでありました。

1)TPPは従来の経済連携協定と異なり、サービス・投資・金融サービス・知財・電子商取引等、新しい分野のルールを決める  21世紀型の経済連携協定であること

2)残された課題は困難なものが多いが、各国首脳は担当閣僚や交渉官に解決に向けての作業を指示するために集まったということ等を発言しました。オバマ大統領に代わる議長役を受けた(TPPの寄託国である)ニュージーランドのキー首相は安倍発言を引用して締めくくりの言葉としました。

よく記者団に大筋合意は出来たのですか?と聞かれますが、そもそも英文には大筋合意なるフレーズがありません。年末妥結に向かって収斂していく姿が確認されることをもって、大筋で合意の方向と事務方が表現したものを、日本のマスコミが大筋合意なる手と位置づけたからです。

ワシントンでの首席交渉官会合を経て技術的・事務的に詰めていくテーマと、政治プロセスを経なければ収斂をしないテーマとにおおよその仕分けがなされ、政治的なプロセスが必須な重要案件として、市場アクセスや知的財産、環境、国有企業等の問題が政治マターとされました。 
首脳会議を通じてこうした課題に決着への指示が初めて出されたということは年末決着に向けての強力なモメンタムになったと評価が出来ます。

日本が参加して以来、TPPは高い野心と適切なバランスと表現されるようになり、バランスという言葉が入ったことを関係国は高く評価をしています。バランスとは物品とルールのバランス、先進国と途上国のバランス、つまりプラスマイナスをすればすべての国がプラスになる協定であること。加えて日本の事務方の能力の高さは各国が高い評価を超えて驚嘆する事態となっています。最後に入会したにもかかわらず、そのキャッチアップスピードの速さと正確性、全ての交渉分野で最高の知見を有していること。「日本は入会する前からテキストにアクセス出来たんじゃないのだろうか」と疑惑を持たれるほどそのスピードと正確性、さらには知見の深さです

TPPには韓国が参加表明を検討していると報道され、さらにはASEANの未加入国の主要閣僚からも参加の相談が来ています。現状でも世界GDPの40%になろうとする加盟国で構成され

TPPがアジア地域の主要経済構想RCEPと合体した時点でその規模は60%となり、日EU経済連携協定や米EU経済連携協定を通じて欧州がアクセスすることになれば世界経済の8割を占める協定となります。そのルールを作る土台となるTPPに不参加となれば日本は世界の経済枠組みから外れることを意味します。TPPの将来像を把握しながら現時点でリーダーシップを取っていくことこそ戦略的対応と言えます。

 

今週の出来事「バリのかたきを東京で?」

インドネシア・バリで開かれたTPP閣僚会合はある種変則的なものになりました。というのもバリではAPECの閣僚会合が行われていたため、その合間に軒先を借りる形でTPP閣僚会合が急遽開催されたという点です。

開催地インドネシアは自らが参加していないTPPのために座敷を貸すという事態になりました。

合わせて注目はどうしてもTPPの方になりがちですので、インドネシアの威信を賭けて開催したAPECはその分霞んでしまうということになります。それもあってかAPEC閣僚には厳重な警護が付くにもかかわらずTPP閣僚にはそれがありません。会場を移動しようとする私の車列を待たせておいて、その鼻先を茂木大臣の車列が悠々と通過していきます。

重要閣僚かたなし…。「よお~し。見てろ。日本に帰ったら『倍返しだ!』(笑)。」