国会リポート 第210号

甘利明本人が綴る、毎月2回のコラムです。国政で今何がおきているのか解りやすく解説しています。

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震災から 3週間が過ぎ、少しずつ被災地支援の歯車が噛み合って来ました。

個々に思い付き発言をしていた政治家が復旧の邪魔になることを理解し発言に慎重になり、ようやく官僚機構が本来の機能でそれぞれの仕事を始められるようになりました。

今後我々がなすべき事の 1つは、被災から復興に至る道のりを克明に記録し、手順の改善点・足らざる点をデータベースとして整理することです。3万人にも及ぶ死者・行方不明者の犠牲 (私の秘書の父親の実家 [岩手県大船渡] でも親族 7名が津波の犠牲になりました。) を無にしないために、後世にノウハウを残す事です。

16年前の阪神淡路大震災の際のデータベースは各府省に間違いなく残っていたはずです。官僚機構を政治の側が統括し、手足としてフルに活用していく。そうした体制が現在取られていれば過去の経験を活かした、より迅速な対応は取れたはずです。

政治と官僚機構は密接に連携してこそ、政府としての力になる。この事は後世、絶対に忘れて欲しくありません。

ただ単に官僚機構と対決するだけの政府なら、官僚主導の政治の方が遥かにマシだと言う事を肝に銘じて欲しいのです。優秀な官僚機構を作る事。そしてそれを使いこなす優秀な政府を構成する事。それこそが政治主導なのです。

政治主導の名の下に官僚機構と隔絶し、官僚機構のモチベーションを落とすだけならむしろ官僚機構の自動操縦装置の方が遥かにまともだと痛感します。

官僚主導とは、それを使いこなす能力と人徳が政治の側にないだけという意味を肝に銘ずべきです。自分が使いこなす能力がない事を棚に上げ、官僚のモチベーションを落とすだけに腐心するなら、そんな政治家や政党こそ退場させるべきです。

阪神淡路大震災の最大の反省点は、被災した地を復旧させる事はできたが、復興させる事はできなかったという点です。

復旧とは、元通りに戻す事であり、復興とは新たな物を創り出すという事です。

震災を機に数段バージョンアップした港や街を作っていれば、神戸港は釜山やシンガポールにハブ港湾の座を奪われなかったはずです。

大震災の被災地、東北を元通り創り直すのではなく、遥かにバージョンアップした地域に創り直すという発想を持って復興に臨むべきです。

さて、私は党総裁からエネルギー需給対策及び中長期のエネルギー基本計画について構想を練る、『エネルギー対策合同会議』の立ち上げを要請されました。

輪番停電 (計画停電) は、暖房・冷房需要のなくなる 5月は実施の必要はなくなると思いますが、冷房需要の発生する 6月からは再度スタートすることになると思います。

被災した火力発電所を復旧し、小規模ガスタービン発電を林立させ、企業の自家発電をフルパワーにしてもらい、余剰電力を買い取り、中部電力や北海道電力から最大限融通をしてもらったとしても、4,650万キロワットの供給能力しかありません。

猛暑の昨夏は 6,000万キロワットの需要がありました。去年並みなら 1,500万キロワットの需給ギャップ、冷夏であっても 1,000万キロワット需給ギャップが生じます。

まして、福島以外の健全原発も順次定期点検に入りますが、点検後に国民感情で立ち上げができない事態に陥れば、国民生活や産業経済は立ち直れないほどのダメージを受けます。

出口のない答えを探す役割になりそうですが、あらゆる英知を結集して解決策を模索しようと思います。