国会リポート 第448号

甘利明本人が綴る、毎月2回のコラムです。国政で今何が起きているのか解りやすく解説しています。
※本記事の無断転載を固くお断り申し上げます。

総 覧

 安倍総理の政治手法を「鳥の目」、菅総理の政治手法を「蟻の目」と評した識者がいます。安倍総理は上空から全体を俯瞰して戦略的な手立てを打っていく。一方、菅総理は次々に目前に現れる課題を力づくで処理して前に進んでいく。確かにこの表現には共感するものがあります。かつて、米国のマティス国防長官が来日し安倍総理と意見交換した後、安倍総理から「自分と同じように全体を俯瞰して、地政学的にものを考えるアメリカ人に初めて会った」と述懐されていました。(もちろんアメリカ人には全体を俯瞰し、地政学的、戦略的発想をする人は少なからずいるとは思いますが、上院で99票の賛同を得て承認されたマティス国防長官に、反対した1票を投じた上院議員ですら「自分は心からマティス氏を尊敬している。全員が賛成するので民主主義の健全さを確保するのに敢えて反対票を投じた」と述べました)

 私が知る限り安倍総理は鳥の目を持って、地政学的、戦略的に外交を進める方でした。一方、菅総理が就任されてほどなく一緒に食事をしませんかとお誘いをいただき、昼食をとりながら1時間話をした際に「菅総理も安倍総理のようにアベノミクスの後を受ける、国家目標を描かれたらいいのに」と申し上げたら、「いや、私のスタイルは今そこにある国家国民の課題を一つ一つ解決していくというやり方ですから」と政治手法の違いを説明されたことが、鳥の目と蟻の目という分析と重なってきます。では、岸田総理は何の目か。その識者の評価は別として、私には目標を語って、その後、そこに到達する手段を語るべきところが、手段の説明に追われているように見えるので、場当たり的と映ってしまい、損をしているように見えてなりません。

 強固な意志であらまほしき未来を語り、そこに到達するための手段を説明し、毅然たる姿勢で邁進すれば支持率は付いてくる。日々の数字の変化に一喜一憂することなく、腹をくくって邁進して欲しいと思います。その評価は、歴史の審判に委ねるしかありません。どんなに才覚に恵まれ望んでもなれるとは限らない総理の座についたのですから、思い切って国家国民のために邁進してください。一時的な支持率対策と受け止められるような施策は慎重に扱った方がいいと思います。そういうアイデアばかり持ってくる人には要注意です。あるいは総理がいいアイデアだと思っても、そのアイデアを官邸のシンクタンクのスクリーニングにかけて、プラスとマイナスを掌握したうえで、判断されたらいいと切に思います。

 アベノミクスとキシダノミクスに共通する政策目標はデフレの脱却です。アベノミクスでデフレではない状況は作りましたが、構造的脱却にはもう一息です。成長と分配の好循環を合言葉にアベノミクスで原資は作りましたが、分配は海外投資と株主還元に向かいました。分配を国内投資と賃上げと下請代金の改善に向け、イノベーションでも吸収できない価格上昇分をコストカットではなく、価格転嫁へと繋ぎ、2~3%の物価上昇をオーバーライドする4~5%の賃上げが毎年連鎖する構造を大企業から中小企業に至るまで作り上げる最大のチャンスです。

 10兆円の運用益を国際卓越大学に投入する大学改革基金の交付対象大学も決まり始めました。日米協働案件の国内外の若手研究者が集う、グローバルスタートアップキャンパス構想にも予算が付きました。半導体戦略は世界で一番投資が進んでいます。サプライチェーンの安全安心を図る経済安全保障は日本発の世界標準になりました。

 我々がついています。岸田総理、不退転の決意で「明日は今日よりきっといい!」を全国民が共感できる日本を作ろうじゃないですか。

 

今週の出来事「ダブルスタンダード?」

 生成AIは、人間がルールやアルゴリズム(問題解決の手順)を教えなくても、機械学習やディープラーニングを通じ自身で体得し成長していく人工知能です。

「だから子供を育てるように健康的な食材(質の高いデータ)を与え、すくすく育てる環境(高品質の計算資源=高機能クラウド・データベース・スーパーコンピュータ等)が必須です。 」GAFAMの経営陣の言葉です。

「完成した生成AIに対しての第一の注意事項は」とのこちらの質問に「生成AIを人間と誤解しないことです。AIは機械です。」

う~ん。子供を育てるように愛情を持って育て、成長したら機械と思えということかー!?