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TPP交渉がいよいよ佳境に入ってきました。オバマ大統領が数カ月前にいささか唐突に11月大筋合意を宣言したため、そのスケジュールから逆算し、10月の25~27日までオーストラリアのシドニーにて12カ国TPP閣僚会合の開催が発表されました。
先般、内々の情報があった時点で、ワシントンを訪問し日米TPP閣僚会合を開きました。結果は物別れに終わりましたが、これはワシントン・ポストが報じているような日本側の責任では断じてありません。十分な準備をして臨んだ日本と、それに比して準備不足のアメリカとの差が軋轢を生んだことが原因です。大臣会合が物別れに終わった後、安倍総理とバイデン副大統領との間でTPPを含む日米間の懸案事項について話し合いが行われましたが、TPPに関しては日米双方が柔軟性を発揮して、早期妥結に向けて努力をするよう両首脳から担当大臣に指示を下ろすということになりました。今後は駆け引きの交渉ではなく、決着させるための真摯な話し合いモードに入っていかなければなりません。米国を含む一部の国以外との二国間交渉は極めて順調に進んでいるだけに、対立を議論する交渉ではなく、全体をまとめるためのモードへと転換をしていくことが重要です。
さて、先週金曜から予算委員会がスタート致しました。野党は異口同音にアベノミクスの4つの誤算とか5つの誤算とか指摘をしています。円安なのに輸出が伸びていないとか、実質賃金が下がり続けているとか、円安はプラスよりマイナスに寄与しているとか、デフレからの脱却ではなく、インフレ下の不況・スタグフレーションを起こしているなどの指摘です。そのほとんどは20年近く続いたデフレを脱却する過程に起こる現象だということを理解していないか、理解していたとしても戦術上隠蔽しているかです。
円安による輸出が期待通りに伸びてきていないのは確かに誤算ですが、異なった形で日本経済に貢献しているのも確かです。円安になれば輸出先価格をその分だけ引き下げ、それによってシェアを拡大し、輸出量が拡大していくのが従来の筋書きですが、企業はあえて価格を下げず利幅を拡大し企業収益を高めています。また、海外投資の配当金は円ベースでは利幅が拡大し、これも企業収益に貢献をしています。もちろん、かつての過度な円高の時に生産拠点が海外に移転をし、国内に生産力がかつてほどないということも原因をしていますし、輸出先のアジア、お得意先のアジアの景気が今ひとつなのも期待したほど輸出が伸びない原因であることは確かです。
また実質賃金が一時的にマイナスになっていますが、それはつまりデフレからの脱却のために2%を目標に物価を引き上げていく政策に加え、消費税の引き上げ分が乗ったものがその年の物価となりますから名目賃金を引き上げても物価高を勘案すれば、実質賃金は一時的にマイナスになります。物価の上昇が賃金の上昇より先に来ますから一年で実質賃金をプラスにする、つまり物価の上昇分を超えて名目賃金を引き上げていくのは難しいと最初から説明はしておりました
ただ名目賃金は過去15年間で一番の引き上げ幅でありましたし、消費税による物価上昇分はワンショットでありますので、賃金引き上げというトレンドが続いていくよう環境整備が出来れば複数年で実質賃金はプラスになります。名目総雇用者所得は昨年の4月以降連続してプラスですが、実は中身が重要です。従来の賃金の上がり方は所定外賃金によるものです。つまり、残業代や一時金(ボーナス)によって上昇して来たわけです。今回は所定内賃金、つまり基本給が上がってきていることに注目すべきです。企業は景気が良くなってきて賃上げを検討する際に将来を拘束しない一時金で引き上げを図ります。そして将来の業績に自信が持てた時に初めて基本給の引き上げを図ります。所定外賃金は上げ下げが自由ですが、所定内賃金は一度引き上げたものを元に戻すことは難しいからです。