国会リポート 第270号

甘利明本人が綴る、毎月2回のコラムです。国政で今何が起きているのか解りやすく解説しています。

総 覧

通常、閣僚は火曜と金曜の閣議の後、定例記者会見を開きます。私の場合はそれに加えて経済財政諮問会議や産業競争力会議の後、記者会見を求められます。さらにはTPP交渉の節目ごとや日銀の政策決定会合の後等、臨時会見を要望されます。

参議院選挙前の定例会見の席上、出席記者の一人が「東京電力から原子力規制委員会に提出される安全審査申請を原発立地県の泉田新潟県知事が門前払いを致しましたが、この件についてどう思われますか」との質問を受けました。私は「所管外ですが」と断りつつ、「東京電力が申請したのは原子力発電所の安全性についての審査をしてほしいということであって、再稼働の申請ではありません。安全かどうかのチェックはなるべく早く受けた方が地域住民にとっても安心出来るのではないでしょうか。泉田さんはおそらく安全審査と再稼働申請とを誤解されているのではないかと思います。」と答えたところ、その報道を見た泉田氏から「私が何を懸念しているのかを大臣に伝えたい。」と面会の申し入れが矢の催促でありました。

次の会見で「泉田さんが大臣に会いたいと言われていますが、会われますか」との質問がありました。「いつでも訪問はお受けします。ただし参議院選挙中は全国を飛び回っておりますので、終わればいつでもお会いします。」と答え、選挙後にお目にかかりました。

知事の懸念は、

1)東京電力の対応が不十分である。

2)安全審査基準はプラントの性能審査基準に過ぎない。

3)まさかの事故の時にはアメリカの軍隊に倣って日本の自衛隊も緊急対応部隊を作るべきだ。

等々のお話でした。

原子力規制委員会が作った新たな原発の安全基準は、本家のアメリカの原子力規制委員会から、日本の新たな基準は厳しすぎるのではないかという意見が出るほど厳しいものになっていると聞きます。安全に対して改善を加えた原発が、その基準を満たしているのかどうか審査をし、足らざる点はさらなる安全措置を勧告されるという行為はやらないよりはやったほうがいいと素朴に思います。安全審査と再稼働は別なフェーズです。安全審査は原子力規制委員会が政府の干渉を排して中立的に行うものであり、そこで合格したものについての再稼働の判断は政府が行います。そのことを承知していながら朝日新聞は、『甘利大臣、泉田知事に再稼働を要請』なる事実と異なる記事が載せられました。公正であるべきマスコミに特定な意図が感じられる記事が掲載されることが往々にしてあります。私はあくまで『医者が勧告している健康診断は受けた方がいい。その結果健康と診断された人を職場復帰させるかどうかは医者の判断ではなく社長の判断だ』ということが言いたいわけです。

もちろん泉田知事が県民のことを考え、最大限の安全を考えたいという精神は敬意を表しています。国民の安全・安心に関わる事項は今後とも感情論で対処するのではなく、科学的見地に従って冷静に判断していきたいと思います。

ほぼ全ての原発が停止しているために、天然ガスなどを追加購入しており、その費用は年間3兆8000億円に及んでおります。各電力会社はその費用を内部留保の取り崩しで賄っておりましたが、このままでは債務超過に陥るために次々と電気料金改訂の申請を致しております。あまりに電気料金が上がりすぎると製造業の海外移転が加速してしまいますし、海外からの日本への投資のバリアーにもなりかねません。

安全を確保した上で再稼働の理解をどう得るかが日本経済再生への要点にもなりつつあります。

 

今週の出来事「経済財政遅刻会議?」

総理の日程が『健康を害するのではないか』と心配される程ハードなのはつとに有名です。それもあってか経済財政諮問会議に主催者たる総理が数分遅刻されることがままあります。

だからといって終了時間をその分延長するわけにはいきません。進行役の私の腕の見せ所です。先般も総理の到着が数分遅れました。にもかかわらずスムーズな運営で時間内に終了することが出来ました。

右隣の茂木経産大臣が「時間通りに終わりましたね。」と声を掛けてきたので、

「うん。総理が遅刻されたにもかかわらずね。」と小声で言うと、左隣の総理が

「ん?どうしたの?」と尋ねてこられたので、

「いや、お陰様で時間通りに終わりました。『総理が遅刻して来られたにもかかわらず』って言うのは、私は止めた方がいいんじゃないかと言ってたんですけど、茂木さんがどうしても言え言えって言うもんですから(笑)。」と答えたら、茂木大臣はパニクって

「私そんなこと言ってないでしょ。大臣が言ったんじゃないですか!」

終始隣でニヤニヤしながら聞いていた総理。

うーん。俺の留任はないな(笑)。