国会リポート 尖閣号

甘利明本人が綴る、毎月2回のコラムです。国政で今何がおきているのか解りやすく解説しています。

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世界の主要国たる国の一つが、これほど露骨な恫喝外交を展開するというのは驚きです。

『まるで山賊のような行為』という報道もありましたが、世界はこれが中国の裏の姿だという事を再認識したはずです。

そもそも、尖閣諸島はその昔から日本の漁民が中継地の一つとして利用している島でありました。

明治時代に政府が、どこの国にも帰属していない事を確認し、沖縄県の一部として領有権を閣議決定し、世界にその旨を宣言しました。

およそ 70年間どこの国からも意義が出なかったのに、1970年代に東シナ海に石油や天然ガスの埋蔵の可能性が報道され始めると突然中国が何の根拠もなく領有権を主張し始めました。

同様の行為は南沙諸島や西沙諸島でも繰り広げられています。東南アジアの漁船を拿捕し連行するのは茶飯事。周辺国からの抗議に耳を貸さない中国が、歴史上も国際法上も日本の領土であり、日本が実効支配している尖閣諸島に向かって言いがかりをつけ、公務執行妨害で逮捕した漁民の釈放どころか謝罪と損害賠償まで申し入れるのは傍若無人の極みです。

政府は毅然たる姿勢で対処をして行かなければならないところですが、夜中に日本大使を何度も呼びつけ、温家宝首相までもが国連で恫喝まがいの会見をし、しまいには報復措置として言いがかりをつけ一般日本人を拘束し、WTO 違反のレアアースの出荷停止をするなど、とても法治国家とは思えないようなやりたい放題です。

我々は、こういう国を隣国として持ち、今後も付き合っていかなければならない覚悟を決め、万全の対処をすべきです。

今回の民主党政府の行動は、肝も方針も定まらない場当たり的な対応と言わざるを得ません。

岡田幹事長は「小泉政権時代、中国人が不法に尖閣に上陸した時にはただ追い返しただけではないか」と言っていますが、パフォーマンスで上陸した民間人をつまみ出すのと日本の領海内で違法操業をし、それを警告されると体当たりをして公務執行妨害行為をした漁船とは事態がまったく異なります。パフォーマンスを仕掛けてきた者をつまみ出すのと警察当局に船舶という凶器を使って攻撃を仕掛けてきたのでは重篤性が異なるのです。

「法と証拠に基づいて粛々と毅然たる姿勢で対処する」と言い続けてきた政府が、中国の度重なる恫喝に一転不起訴釈放をし、「すべて地検による政治外交的判断」と責任を地検に押し付けてしまったのでは、今後の捜査当局の対応に不安が残ります。

同様の事件が再発したら同様に対処する、との岡田幹事長の言ですが、同じように逮捕して恫喝をされるや、また釈放するという意味でしょうか。

東南アジア諸国は、中国の高圧的な対応に悩んできた一員です。今回の日本の対応を誰より落胆していると思います。

インドでの報道は『日本は中国の圧力に屈した』とされています。

私が十数年前から主張していた「21世紀の最大の課題は中国の政治的・軍事的・外交的・経済的膨張をどう制御して、良識ある国際社会の一員として組み込んでいくか」という通り、具体的案件が頻発し始めました。

アメリカやロシア、ASEAN やインド、そしてEUと協調をし、膨張する中国に国際社会の一員としての責任と自覚を持たせていく事が、世界の最大の課題になります。

民主党政権は、『日米中は正三角形』と言いつつ、米国との関係から足を引いていくことが中国との関係を良くするというかのような誤ったメッセージを出していますが、まず強固な日米関係があって、そして手を携えて中国の自覚と責任を促すという姿勢が本来の姿のはずです。

民主党は市民運動の代表者とか社会活動の代表者で構成されている政党ですが、どうも国家意識が希薄な人達の集団と思われてなりません。地域コミュニティさえしっかりしていれば、中央政府の存在などもっと希薄で良いという認識が、腰の定まらない今回の対応の中心にあるのではないでしょうか。

究極的には中央政府は安全保障と外交だけしていれば良い、と主張する菅政権にその肝心の安全保障や外交がこの有様では、残りはどうなってしまうのか、背筋が寒くなる思いです。

外交上の友好親善とは、国益を踏まえ毅然たる姿勢で妥協点を探る行為だという事を肝に銘じてもらいたいものです。