国会リポート 第203号

甘利明本人が綴る、毎月2回のコラムです。国政で今何がおきているのか解りやすく解説しています。

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今年最後の国会リポートをお届けします。それにしても、色んな事があった一年でした。

2年前、民主党は「海の向こうで民主党政権が誕生した。次は海のこちらでの『政権交代 (チェンジ)』がキーワードになる」と国民に訴え、その半年後、太平洋を挟んで 2つの『民主党政権』が誕生しました。

しかし、この 2つはスタートから覚悟を異にしていました。

『前政権の負の遺産』 日本の民主党が好んで使うこのフレーズを一度だけオバマ大統領も使用しました。しかし意味合いはまったく異なります。

「前政権の負の遺産も背負って私はスタートしなければならない」という就任演説でのこの言葉は「就任中に起きた事は、前政権の関係も含めてすべて自分の責任」という覚悟の表明でした。

一方、日本の民主党は「自分のせいではない」という言い訳に「前政権の負の遺産」を連発します。責任を誰かに押し付けるという選択肢から入ると、正しい判断がしにくくなります。覚悟を決めれば背水の陣を敷かざるを得なくなり、背水の陣を敷けば綿密なシミュレーションを行うという行為に繋がり、そこからは正しい判断が導かれます。思いつき発言や無責任発言の連発は覚悟の欠如に起因します。「すべての責任は現政権にあります」と、ぜひ宣言してみて下さい。そこからしか道は開けないのです。

来年度予算は今月 24日に何とかまとまりそうですが、仙谷官房長官自身ですら表明している通り、再来年度予算はこのままではまったく組むことができません。

将来発生する事態への準備金として特別会計に積んでおいたお金まで「埋蔵金」と称して歳入に召し上げ、赤字国債の利息が将来下がる事を期待して利払い費を圧縮し、無理矢理つじつまを合わせてやっと組んだ予算であり、再来年度ではこの奇策はもう使えません。万策尽きた状態に陥ります。

決断しなければならないのは、ばら撒きマニフェストの全面撤回と中期財政再建ビジョンを策定する事です。

国債残高の累増に触れると「こんなにしたのは自民党」と云う『常套句』で反論されます。するとそこで話は終わってしまいます。問題は「財源手当のない十数兆の恒久政策」が継続しているという点なのです。

自民党の時代は景気対策のような「臨時対策」の時のみ使用された手段が恒常的に行われているという危険性です。今までの累増スピードを遥かに上回る加速度で赤字国債が積み上がる恐怖です。その原因は「財源は事業仕分けによる無駄の削減でまかなう」という公約の「うそ」がばれたためです。

毎年 16.8兆円掛かるマニフェスト恒久政策の財源が事業仕分けで 7千億円しか出せないなら残りの 16.1兆円分は取り止めなければ恐ろしい事態を招くことは小学生でも分かる話です。

「1回限りの政策でない継続政策には、それを継続して賄う事のできる恒久財源を手当てする。」を政策の原則にしないと国債の返済費用がすべての政策経費を食ってしまうという事になりかねません。

世界中で、ジンバブエの次に国債残高比率の高い日本が世界一低い国債利払い利率でいられるのは世界経済の七不思議です。その理由は、(1) 国債が自国通貨建てで消化できる事 (2) そのほとんどが国内で消化できる事 (3) 国債発行する国の経済規模が相当に大きい事、によると考えられています。

しかし今後、景気が良くなれば国債を買っていた国内資金はもっと利回りの良い投資先へと向い、(2) の国内消化原則が破綻します。外国からは利回りの向上を要求をされ、国債の信用度の低下と合わせて国債価格が暴落をし、利払い費は一挙に拡大し、財政を決定的に圧迫します。『景気が良くなると財政が破綻をする』というジレンマと向き合う事になります。

それを防ぐためには、政府が「日本国債の信用は断じて貶めない!」と毅然たる姿勢を示す事です。それは財政再建シナリオを責任を持って作る事にほかなりません。

景気対策のための財源を確保しつつ、財政再建シナリオを作っていく。そのために真っ先にやるべき事がばら撒きマニフェストの撤回なのです。

 

今週の出来事「先週の出来事…。

 

「いつも、これが届くのを楽しみにしてるんですよ。」

国会リポートを送っている先でよく言われる言葉です。

「ありがとうございます。何かご意見がありましたら何でも言ってください。」

「えぇ、でも今週の出来事しか読んでませんけど。」

「・・・・。」

…来年も頑張ります。