総 覧
新たな大臣に就任するたびに『在任中に一つだけは歴史に残るような業績を挙げたい』というのが私のモットーであります。規制改革担当大臣に就任した時点で、どうしても実現したい規制改革案件がありました。それは、ライフサイエンス分野 (生命科学・医療分野) の規制改革です。
規制改革そのものは、新たな財政支出を伴わず、つまり税金を一銭も使う事なく経済社会を活性化する魔法のツールです。しかしながら、昨今はちまちました案件が多く、かつて移動体通信 (携帯電話) の規制改革を断行し、世の中を変革させたような大粒のものが見当たりません。移動体通信に代わる次なるフロンティアをライフサイエンス分野の規制改革へと前々から考えておりました。
最新の癌治療に自家再生細胞移植治療というものがあります。これは例えば初期の食道癌の治療の際ファイバースコープで患部を見ながら悪い部分を削り取り、患者の健康な食道の細胞を培養してフィルム化し、削り取った跡に貼り付けるという治療であり、入院期間も患者負担も圧倒的に縮小されます。
しかしながら、この場合手術から細胞の培養まで一貫して医者が行えば合法ですが、細胞の培養を専門の技術者・バイオベンチャー企業に行わせると、医療法や薬事法に違反する事になります。細胞培養を素人の医者がやれば合法で、プロのバイオエンジニアがやると違法である。これはひとえに医療法や薬事法の設計年次が古い (医療法は昭和35年、薬事法は昭和24年施工) 事に起因しています。医療や薬の世界では、今日の医療技術の進歩を想定していなかったのです。
医者も患者も歓迎し、その分野の企業も発展していく、すべてがウェルカムの案件が進んでいかないのは厚生労働省の体質によるものです。もちろん同情すべきはあって、安全の最後の砦である以上、新しい事へ踏み出す事に慎重になるのは役所としての性とも言えるものです。
私が、「この件は、官僚がぐずぐずしているなら大臣間で決着を付ける。」と宣言して臨んだものでありますから、事務折衝の段階から従来よりは飛躍的に前進いたしました。大臣折衝の結果は、(1) 臨床の段階に限っては薬事承認がまだ取れない医療機器・医薬品の使用についてのガイドラインを設ける、(2) 医者とバイオエンジニアが連携をする仕組みの検討会を既存の官民対話の中に設ける、等であります。
現状において、予見可能性を高め、ライフサイエンス分野のフロンティアを拓いていく革命的な出来事と関係者から驚嘆され、絶賛を浴びております。
「政治家が、決意を持って行動を起こすと、事務方にとって不可能と思われた事も可能になるんですね。」
規制改革事務局が感慨深げにつぶやいた言葉です。
また、先般このページでピロリ菌退治と胃癌の撲滅との関係について述べましたが、これを見た北海道大学の浅香正博病院長から資料とお手紙を戴きました。ヘリコバクター (ピロリ菌) 学会でもピロリ菌と各種疾病との関係を立証しているようで、いくつかの提案を戴きました。それを厚労省に投げ、一部は保健対応が実現することになりました。
本大臣職にあっても私の本来分野でない歴史に残せるような実績がいくつも挙げられそうです。