国会リポート 第399号

甘利明本人が綴る、毎月2回のコラムです。国政で今何が起きているのか解りやすく解説しています。
※本記事の無断転載を固くお断り申し上げます。

総 覧

 「昨年、10-12月期の日本経済はマイナス成長に陥った可能性がある。」 ダボス会議における日銀黒田総裁の発言は衝撃を与えました。2度の台風被害による鉱工業生産の落ち込みが原因とのことです。内閣府による令和二年度の実質経済成長率は1.4%と発表されていますが、これでまた民間予測との乖離の議論がかまびすしくなりそうです。しかし、政府の発表は単なる予測であってはいけないと思います。政府の発表にはそこに向けて努力をしていくという政府の意志も込められるべきだと思います。

 デフレが15年以上続いた背景は何か、と検証してみれば、期待成長率に対する企業経営者の見方がバックワードルッキングになりすぎているとの指摘があります。つまり未来予測を常に過去の延長線上に置いているという見方です。過去がデフレであるならば、未来もデフレ。だからその未来に見合った投資しか行わない。バックワードルッキングの視点ではデフレがデフレを生んでいくということになります。デフレの本質はまさにそこにあると言わざるを得ません。大事なことは未来を単なる予測ではなく、未来は創るという意思を持つことです。予測なら調査機関に任せればいいこと。未来に政府の強い意思を持って政策を投入する、つまり期待成長率は政府の決意がコミットされる場でもあります。バックワードルッキングでなくフォワードルッキング、未来志向の予測であるべきです。

 過去の延長線上に未来を見れば、バブルの崩壊後日本は2008年をピークに人口が頭打ちをし減少をし始め、それにより、生産力も消費力も落ちていくという未来予測になり、日本の市場には将来性がないという思い込み、集団催眠がデフレの脱却を阻んでいきます。生産側、消費側とも生産年齢人口が減り消費人口も減る、よって生産能力も消費能力も減衰していくという悲観的な集団催眠に陥っていました。しかし、政府の意志が入れば変わっていきます。

 安倍政権下では生産年齢人口が500万人減少したにもかかわらず、労働力つまり就労者数は380万人増加しました。原因は高齢者と女性の労働市場への参入です。社会保障を全世代型へと転換し子育て環境を整備し、女性の労働市場参入を促す。定年延長や再雇用制度の充実を図り、リタイア年齢を引き上げる。定年年齢をあと5歳引き上げれば、2030年代半ばまで労働力人口は減ることはないとの推計もあります。一方消費市場は1億2千万の人口は2050年には1億を切るという悲観があります。しかしこれもTPPが締結され消費市場が4倍の5億人に拡大しました。TPPは単なる貿易協定ではなく経済連携協定です。つまり日本市場と同じような経済活動が成しうる環境を広げると言うことです。すなわち日本市場が4倍になる。

 生産側も、消費側もバックワードルッキングの悲観的未来予測から解放する政策です。さらにミクロ、個々の企業行動の視点でも改革が必要です。それは日本企業のマークアップ率の低さとマークアップの取り方の問題です。マークアップ率とはかかったコストの何倍でモノやサービスを売っているかという数字です。欧米一流企業は1.5倍、つまりかかったコストの5割増しで製品やサービスを売っているということです。日本ははるかに低いマークアップ率です。加えてマークアップの取り方です。欧米は高い値付けをしてマークアップを取りますが、日本はコストカットをしてマークアップを取ります。つまり高付加価値競争と低価格競争の差です。前者はつねにイノベーションと向き合い、後者はひたすら仕入れ原価を叩くという違いです。いいものをより安くといいものをより高くの差がそこにはあります。高く売るためには他社との差別化が必須です。そこからは事業革新が生まれビジネスモデルの見直しが常に行われています。

 後者つまり日本産業界は差別化を価格の安さで表現するという方向になり自身のマークアップの引き上げを下請けのマークアップの引き下げによって賄うという事に繋がりがちです。かつて赤字に陥ったコマツは重機からのデータをサービスに変えて差別化を図りマークアップを拡大しました。製造業のサービス産業化です。

 

今週の出来事「国会(Diet)ダイエット」

 この半年でいつの間にか5キロも太ってしまいズボンのウエストを5センチ伸ばすハメになってしまいました。さすがに危機感を感じこの一週間は朝昼を抜いて夕食だけにしています。ところが体重がちっとも減りません。

 おかしいですよね、ちゃんと朝昼抜いて夜三食にしてるのに。