国会リポート 第398号

甘利明本人が綴る、毎月2回のコラムです。国政で今何が起きているのか解りやすく解説しています。
※本記事の無断転載を固くお断り申し上げます。

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 明けましておめでとうございます。令和2年も穏やかな幕開けとはいきませんでした。イランのテヘラン空港を離陸したウクライナ航空機がその直後に地対空ミサイルと思われるものにより撃墜されました。イラン当局は当初必死に単なる火災事故と火消しをしていましたが、客観情勢は明らかで、すぐにミサイルによる誤認撃墜と認め謝罪しました。アメリカによるイラン革命軍司令官の殺害に対する報復としての在イラク米軍基地ミサイル攻撃の数時間後でしたので、米軍からの反撃と誤認したという事です。しかしミサイル攻撃をした数時間後の民間航空機の飛行判断は何ともリスクが高い判断だったのではないでしょうか。少なくとも情勢が安定化するまで飛行は取り止めるというのが誤射を避けるリスク管理だったと思います。200名近い無辜の民間人が犠牲になりました。冥福を祈りつつ、世界中のエアラインに警鐘を鳴らしたいと思います。

 中東情勢が緊迫する中で日本は自衛隊のアデン湾への派遣を決定致しました。日本船舶の護衛と情報収集調査のための派遣です。ホルムズ海峡から離れたインド洋側のアデン湾やオマーン湾への派遣というのが苦渋の判断です。米国が呼びかける有志連合の仲間には入らず、かといって我が国のタンカーの航行の安全を人任せという態度に映らぬよう、苦肉の判断と言えましょう。米国側とも、そして米国と対峙するイラン側とも良好な関係を保っているのは日本だけです。緊迫する事態が戦争へと発展しないように両者の間に入りつつ、沈静化へ向かわせる立ち位置に日本はいると思います。今のところ両国首脳とも戦争になることは望んでいないと表明をしていますし、イランによるミサイル報復も人的被害が出ないよう配慮しつつ、面子措置は取ったということのようです。

 そのアメリカでは11月の大統領選に向けての動きが過熱化しています。共和党はトランプ大統領以外有力な候補者は見当たらない中で、一方の民主党は予備選が過熱しています。党内討論会の参加資格者が支持率と政治資金寄付人数による足切りによって絞られていく先には中道派のバイデン元副大統領、これを追う急進左派のウォーレン上院議員とサンダース上院議員、これに資産の額でトランプ大統領を一桁上回る元ニューヨーク市長のブルームバーグ氏がどう参戦していくかの模様です。ウォーレン上院議員やサンダース上院議員はバイデン元副大統領に急追はしていますが、民主党支持者の間でも急進左派の両候補はどちらが民主党予備選を制したとしてもトランプ大統領には勝ち目がないと認識しているようです。最終的に勝つ可能性があるのはバイデン候補ということになります。バイデン候補の勝つ可能性は本来少ないと言われていますが、予備選がもつれ込めば込むほどその可能性はより少なくなっていきます。同じ党内で候補者同士が相手の欠点をあげつらい罵りあう合戦を延々と続けていき、最終的に一番党内投票を取った候補者に一本化されるというシステムは、昨日まで罵り合って今日から仲良くまとまりましょうというシステムです。本選挙までの期間が長ければとにかく、直前に決まってさあ、まとまっていきましょうというのではとても間に合わないと思います。

 アメリカの大統領選挙が現職の二期連続というのが定番化しつつある原因の一つがそこにあるのではないでしょうか。それにしても候補者の有力度合いの評価の一つに集金力があります。選挙資金を多く集めた方が国民に評価されるという日本との文化の違いは日本に寄付文化が根付いて行かない裏返しのような気もします。もちろん足切り要件に寄付者人数の大小が入っていますから、金持ちからまとまって支援を得ることに加え、できるだけ多くの人から細かく集めることも必要です。つまり額と数が政治家の評価です。

 

今週の出来事「煩悩は残る」

 日産の元CEOのカルロス・ゴーン被告の逃亡劇はまるでスパイ映画もどき。事件に関する映画をハリウッドに作らせるって言ってるらしいですけど、まさかトム・クルーズに出演依頼をしてるんじゃないでしょうね(笑)。

 大晦日の除夜の鐘の回数が107回で1回足りなかったのはゴーンが逃げたからだってギャグが流行ってますが、それはともかく、裁判所や税関の今回の失態は、日本の司法制度の信頼性を相当損失(ロス)させたとの声がもっぱらです。 重大なロスであり軽いロスではありません。

 軽ロス・ゴーンじゃないんですよ(やっぱりギャグだ(笑)。)