国会リポート 第396号

甘利明本人が綴る、毎月2回のコラムです。国政で今何が起きているのか解りやすく解説しています。
※本記事の無断転載を固くお断り申し上げます。

総 覧

 在英国日本大使の鶴岡公二氏が3年半の任期を終え、帰国しました。彼は私のもとで首席交渉官としてTPP12をまとめてくれた功労者の一人です。退任帰国の挨拶に来た際、興味深い報告をしてくれました。英国はラグビー発祥の地で、先のラグビーワールドカップ日本大会にも多くのファンが日本を訪れました。ラグビーは他のスポーツとは桁違いにハードで運動量が多いため、試合間のインターバルが他の競技より長いことで有名です。それ故、ラグビーファンも開催国に2~3週間滞在します。試合のない間は各地を観光して回っています。初めて日本を訪れたラグビーファンは日本の素晴らしさに感銘を受けたようです。安全で安心、街は清潔で風光明媚。食べ物は美味しく、交通は便利。そして何よりも親切な国民性。ホスピタリティは世界一。こうした日本の実態に触れたファンが帰国後、日本の素晴らしさを熱く語ってくれます。鶴岡大使のもとには日本を訪れたラグビーファンから感謝の手紙が続々と届きました。想像を超えた素晴らしい日本で日本の良さを満喫し、素晴らしいホスピタリティを受けた。この喜びと感謝の気持ちを日本の誰に伝えていいかわからないので、日本大使にお礼状を送りましたと手書きの礼状が殺到したということでした。日本国民は控えめですから、自己アピールが苦手です。歴代政府もそのDNAを引き継いでいるので、これ見よがしな日本のPRはして来ません。初めて日本を訪問した人たちは知られざるその素晴らしさに感銘を受けたようです。

 そういえばTPP交渉当時、一番難しい交渉相手のアメリカの中でも最も強力な圧力団体、全米養豚協会の最強のロビイストである副理事長が私的旅行で夫婦で日本を訪れたときの感想が何かの雑誌に掲載されていました。どの観光地に行っても整然と列に並び、穏やかに談笑しながら順番を待つ。外国ならおなじみの馬鹿騒ぎや嬌声を上げる人は一人もいない。その身のこなしの紳士さに感銘を受けたと綴っていました。政府は強力な外交で日本のプレゼンス(存在感)を高めていますが、合わせてインバウンドを更に拡大し、日本の古来持っている伝統的精神やホスピタリティに接することを一人でも多くの外国人に経験をさせるということが、最高の外交になるかもしれないと思うようになりました。中国の観光客が日本に来てみたら、日本は中国政府が宣伝するような軍事国家の匂いなど全くしない平和国家だと感じ、日本人のマナーの良さに己を恥じて日本を再評価して帰ってくる人が逆に中国政府を悩まさせているということを聞いたことがあります。日本の最強の外交の武器は日本人の伝統的精神かもしれません。126代続く天皇を国民統合の象徴として仰ぎ、崇敬の念を持って今日まで共に歩んできた歴史は何事にも代えがたい、まさに地球遺産なのではないでしょうか。日本を訪れる外国の元首が百代以上皇統が続く天皇陛下との謁見を最高の栄誉と感じていることを我々は重く受け止めるべきです。

 さて11月中旬の勉強会からスタートした自民党税制調査会がようやく本日(12月12日)大綱にまとまりました。今税調の主なテーマは
(1)経済のデジタル化に伴い新しい形態のビジネスモデルがグローバルに展開されているが、従来の国際課税システムはそれに対応できず次第に機能しなくなることへの課題
(2)デジタルインフラの新しいフェーズへの進化(5G)にどう向き合うか
(3)経済のデータ化に対し旧来の事業会社はどう事業革新を起こしていくか
(4)地方創生政策の加速にどう取り組むか
(5)番目は部分的に政策対応して来たパッチワークを抜本的に整理できるか
という視点に立ったものでした。大きな争点はないと言われた今次税調で歴史の転換点になる税制改正が出来たと思います。

 

今週の出来事「ババ抜き? 」

「税調のトランプ」

私に新しい称号がつきました。周りにあんまり相談しないで先導していくスタイルを称してだと思います。でもトランプ大統領が私ほど優しかったら世界はこんなにピリピリしてないでしょうね。同じく優しいだけのトランプでは覇権国に対する制御力にはなりません。

『強くなければ生きてはいけない、優しくなければ生きる資格はない。』レイモンド・チャンドラーの小説の中で主人公フィリップ・マーローが発する私の好きな言葉です。思いやりを持ったトランプさんなら最強のカードかもしれません。(笑)(トランプとカードとをかけている意味わかります?)

あ、そうかジョーカーだ!制御不能な最強カード(笑)