国会リポート 第391号

甘利明本人が綴る、毎月2回のコラムです。国政で今何が起きているのか解りやすく解説しています。
※本記事の無断転載を固くお断り申し上げます。

総 覧

 日米物品貿易協定が首脳間で合意に至りました。片務協定だと揶揄する人もいますが、現環境下では十分合格点はやれると思います。というのも有無を言わさず重関税をかけてくるトランプ施政の下にあってはターゲットとされた国は守り抜く貿易物品の優先順位に従って交渉を進めざるを得ません。日本の自動車の輸入関税を現行の2.5%から25%に引き上げるなどという暴挙はWTO上も決して許されるものではありませんが、現実に重課合戦が行われている中でこれを回避し、未来永劫発動させない言質を取ることが最重要課題でした。

 その次に大事な農産品の米については対象外とすることが出来ました。一定の工業製品の無関税化も取ることができましたし、全関税品目の総額の9割超の関税撤廃に言及出来なければWTOルール上協定として成り立ちませんが、その半分を自動車関連が占めているため自動車の関税撤廃が含まれなければ協定は成り立ちません。そこで米国側の将来の関税撤廃に向けて協議するという項目が入った訳です。

 トランプ氏に限らず、歴代アメリカ大統領はなぜか自動車は日本側に貿易障壁があると勘違いしています。そもそも関税をかけているのはアメリカ側であり日本側は無関税です。国内でのあらゆる対応も内外無差別でありますし、現にEUの各メーカーは過去最高の売り上げを記録しています。つまり日本には関税障壁も非関税障壁も存在しません。商品の魅力があろうとなかろうと同じだけ売れなければおかしいというのであれば、貿易の必要性すらありません。貿易とは比較優位性の交換です。品目ごとに外国製品を使った方がいいか、国産品を使った方がいいかコストパフォーマンスの比べ合いです。そうすることによって、消費者は世界中から一番コスパの良い製品を使うことが出来るのです。もちろんコスパは悪くとも国内政策上必要なものは関税をかけて守っていきます。それが農作物なのです。

 日米貿易協定に隠れて見逃されがちですがもう一つの協定、日米デジタル貿易協定は急速にデジタル経済化していく世界のルールを日米で牽引していくための極めて重要な協定です。この中身は
1)アルゴリズム(AI等の計算手順)の投資相手国からの開示要求の禁止
2)ソースコード(ソフトウェアの設計図)の開示要求の禁止
3)サーバーローカライゼーション(投資相手国へのサーバーの国内設置要求)の禁止
等のルールです。これは今年の1月に安倍総理がダボスでデータ駆動型社会の基本原則、DFFT(データ・フリー・フロー・ウィズ・トラスト)を世界に向けて発信しましたがその具体的な内容の一部をまず日米間でルール化したものです。これは明らかに国家資本主義陣営を意識したものであり、データ駆動型社会における公正で透明なルールを世界ルールとして定着させていこうとするものです。

 さて先日、自民党税制調査会長としてのインタビュー記事が日経新聞の1面トップに掲載をされ、反響を呼びました。私の言わんとするところは増え続ける内部留保、なかんずく現預金は第2次安倍内閣の期間中50兆円以上積み増され、個人金融資産のうちの現預金も1000兆円になんなんとしています。つまり投資は拡大しつつありますが、まだまだ貯蓄から投資への政策は進み切っていません。企業の現預金を一過性でないイノベーション投資へと結び付けていくことの重要性に言及をしたわけです。安倍内閣が出来たとき、アベノミクスの目指す姿は「日本を世界一イノベイティブな国にする」ことであり、そのためにはイノベーションの生態系(イノベーションエコシステム)を作ることです。一過性でない連鎖を生み出すイノベーション投資こそ重要です。

 

今週の出来事「不養生の薦め」

 先般めでたく古希を迎えましたので、今年の人間ドックは脳と心臓を重点的にチェックしました。結果は年齢からすると極めて良好で、検査後の医者の問診では「今の生活を維持している限りは2~3年以内に脳梗塞や心筋梗塞に陥るリスクはまずありません」と太鼓判を押されました。

 え~と、今の生活?・・・毎晩会合で酒飲んでるでしょ・・・食事は不規則で偏食だし、睡眠不足で運動はしてないし・・・う~ん、この生活を維持した方が良いってこと?

 自堕落の薦め(笑) みんなはまねしないように(笑)