国会リポート 第358号

甘利明本人が綴る、毎月2回のコラムです。国政で今何が起きているのか解りやすく解説しています。

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 世紀の会談と注目された米朝首脳会談第1ラウンドは金正恩委員長の作戦勝ちのように映ります。トランプ大統領の予測不能な出方に震え上がっていた北朝鮮は入念な根回しと作戦でこの会談に臨んだのに対し、トランプ大統領は持ち前の出たとこ勝負の勘で対応するという作戦が裏目に出てしまったのではないでしょうか。もちろん米朝首脳が歴史上初めて会談をし、北朝鮮側が総論としての核ミサイル廃棄に文書で署名したことは大きな意義がありますが、具体的対応として北朝鮮が切ったカードはICBMのテスティングサイトを破壊するという約束だけです。これに先立った核実験場の廃棄の際にも西側メディアを現場に立ち会わせ、プレイアップさせたにも関わらず、専門家を立ち会わせることを頑なに拒否したことはいつでも再開できる壊し方と疑われても仕方がありません。一方、アメリカ側は米韓合同軍事演習の中止、さらには東アジアの安定のためには絶対切ってしまってはいけないカード・在韓米軍の撤退すら示唆する発言となりました。加えて中国や韓国は段階的支援のニュアンスも出しています。金正恩委員長はしてやったりと思っているでしょうが、33~4の彼がこの作戦を仕組んだとは思えません。金委員長に振り付けをする部隊の存在はかねてから報じられていましたが、面目躍如といったところでしょう。

 中国にとって望んでやまないことは、フィリピンからの撤収に続き、朝鮮半島から米軍を撤収させることです。これで心置きなく東シナ海から南シナ海を内海として軍事支配できるわけです。いわゆる東西軍事緊張線は一挙に第一列島線(沖縄~フィリピン)まで後退し、東アジアはかつてない緊張感に包まれます。韓国は大統領のポピュリズム戦略が見事に支持率向上に繋がっていますから、この現実は当分の間、よそ事と映るでしょう。しかし、前にも書きましたが現体制のまま北と南が統一されることは絶対ありません。韓国が金正恩独裁体制の傘下に入ることはありませんし、北朝鮮の民主化は金正恩委員長の人民裁判へと繋がりますので、これもありえません。韓国は中国・北朝鮮連合軍の政治・経済・軍事的プレッシャーにアメリカの盾なしに向き合うことになります。トランプ大統領が在韓米軍の存在を単なる経済的コストだけで捉えているのは驚愕ですが、したたかなトランプ大統領のことです。前言訂正は朝飯前だと思います。米朝交渉はこれからが正念場です。完全かつ検証可能で不可逆的な核ミサイルの廃棄(CVID=Complete Verifiable Irreversible Denuclearization)に向けて経済制裁を止めることはありませんが、韓国や中国やロシアが抜け道にならないよう慎重な対応が必要です。

 トランプ大統領はCVIDが実行されれば中国・韓国・日本が北朝鮮に対する経済支援を行うだろうと表明しましたが、日本はCVIDに加え、拉致問題の解決が絶対条件です。「アメリカに体制の保証をさせつつ中・韓・日から経済支援を引き出し、表向きは否定しながら(イスラエルのように)事実上の核保有国になる」というのが金正恩委員長の目標だということを肝に銘じながらCVIDの実現と拉致問題の解決に向け具体的にスケジュールを描いていくということが絶対に必要です。「最大限の圧力」の実行が今日を作ったという事実を夢々忘れず気を抜かないようにしなければ、何度も煮え湯を飲まされた過去の二の舞が取り返しのつかない事態としてやってきます。

 

 

 

今週の出来事「公営ギャンブル?」

40年前、私の父が選挙に落ち、追われるように、まるで夜逃げのように議員会館を引き払った経験がトラウマになって「選挙にだけは負けたくない」というその後の気持ちに繋がっています。

IR法案がようやく衆議院を通過しましたが、IR(統合的リゾート)とは国際会議場やホテルやテーマパークを隣接したカジノを意味する施設で、全体面積の3%がカジノに充てられます。一流カジノの経営を支えるのは一般来場客とは区分をされた世界の富豪からの上がり・収益です。プライベートジェットでやってきて、一晩に億単位で散財する人達をどう呼び込めるかがカギのようです。

野党の反対演説の中に「私は親の遺言でギャンブルはしません」と発言していましたが、選挙に出ることが一番のギャンブルだって知ってた?(笑)