国会リポート 第355号

甘利明本人が綴る、毎月2回のコラムです。国政で今何が起きているのか解りやすく解説しています。

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 「これ以上圧力をかけ続けるなら核ミサイル廃棄交渉に悪影響を与える。」北朝鮮労働党機関紙に掲載をされた警告文はまさに北朝鮮の本音が見えたという証拠です。再三指摘をしてきた通り、金正恩委員長に核ミサイル廃棄を完全に行う意思はなく、どう誤魔化しつつ経済制裁を解き、経済援助を引き出すかという最初からのシナリオに竿を刺されることは極めて都合の悪いことだからです。韓国において金正恩委員長に好感を持つ人が64%に上がり、文在寅大統領の支持率が84%に上ったのを「してやったり。」と、ほくそ笑んでいるのが金委員長周辺であることは間違いありません。

 異母兄を暗殺し、叔父一族を皆殺しにし、就任以来数万人規模の大量処刑を行った人物があっという間に「結構いい人」と変わってしまったのは、いかに人間の心情が移ろいやすいかの見本です。過去に何度も騙されてきたパターンに全く学習がなされていないという事は嘆かわしいことですが、それだけ北朝鮮当局は対象者の思考パターン、行動パターンまで綿密に研究し尽くしている証左です。現体制のまま南北が統一されることはありません。統一のためには同一の統治体制が必要になりますが、金正恩独裁体制の下に韓国が入ることはあり得ませんし、北朝鮮への議会制民主主義の導入も金正恩委員長は認めるはずはありません。独裁体制が民主化した際の独裁者の末路は、金正恩委員長は嫌というほど見てきたからです。現体制のまま北朝鮮に核兵器を含む全ての大量破壊兵器とあらゆる射程の弾道ミサイルを放棄させるためには、全てが確認された後に経済支援を行う。経済支援を早く受けたいなら不可逆的措置に至るまでのスピードを上げるしかないという事を北朝鮮に覚悟させるしかないのです。二度も三度も騙されてきた手法を今回も繰り返すことになれば今度こそ取り返しのつかない愚かな歴史が刻まれることになります。現時点で北朝鮮が日米を非難する理由は自分にとって都合の悪い動きが起きている裏返しなのです。核・ミサイル廃棄に向けて、完全で検証可能な不可逆的措置が実行されるまで経済制裁解除も経済援助も、更には人道的支援も一切封印する覚悟が必要です。早く援助がほしいなら早く廃棄を完了する。この一点を韓・米・中・日で共有することです。

 連休中、日経新聞が主催する富士山会合の一環として米国訪問をしてきました。与野党議員と有識者で構成される十数人の団長を務めました。アメリカ政財界の関係者との対談やCSISやブルッキングス研究所、ハドソン研究所等シンクタンクでのディスカッションを行ってきました。私はブルッキングス研究所でのディスカッションでのパネラーとキーノートスピーチを行いました。関係者から「Chin-Droppig(Jaw-Dropping 顎が落ちるほど衝撃的な)で素晴らしいスピーチ。」と絶賛をされました。「聴衆のアメリカ人が最初から熱心にメモを取る光景を初めて見た。」との評価も頂きました。内容は中国習近平主席の独裁体制の下、政府とバイドゥやアリババやテンセント等のデジタルプラットフォーマーが表裏一体となり、それに軍がのって政治と経済が一体となった世界覇権戦略が猛烈なスピードで進んでいると警鐘を鳴らすものです。百数十名の聴衆の中に、中国大使館館員が3名派遣されていました。ドッグイヤーと言われている現在、もりかけ問題で延々と審議拒否をしている間に日本は終わりかねないとの焦燥感を抱いている人は少くないと信じています。

 

 

 

今週の出来事「ステルス週刊誌?」

ロッキード・マーチン社を訪れた際、世界最新のステルス戦闘機F35のシュミレーターのコックピットに座らせてもらいました。計器類は一つもなくテレビゲームの様にターゲットが表示されます。加えてパイロットのかぶるヘルメットは視線の動きに合わせて動く表示スクリーン。こちら側は相手のレーダーには映らず、望遠鏡でも確認できない遠くから打つミサイルは自動追尾なので、打った瞬間逃げ帰ることが出来ますから相手は手の打ちようがありません。

しかし警戒すべきは中国・ロシアの諜報機関も相当程度この機密情報には接していると言われています。諜報機関もなければ、法律整備も遅れている日本。あるのは不調法機関(週刊誌)だけ?
(※不調法=たしなみのない、節度のない。)

「うちが入っていない!」と某テレビ局からクレームが来たりして(笑)。