国会リポート 第152号

甘利明本人が綴る、毎月2回のコラムです。国政で今何がおきているのか解りやすく解説しています。

総 覧

日本は実体経済の落ち込みが欧米よりも大きいと心配されていますが、その欧米の悩みは実体経済の前段の金融システム不安の払拭がいまだ図られていないというところにあります。

銀行倒産の不安が続く中で、あと一体いくらの公的資金を注入すれば収まるのかも見通しがたっておりません。出だし好調であったオバマ大統領の支持率も、次第に陰りをみせているようです。

一方、中国は日本を始めとする過去の金融危機の経験を徹底的に検証していると言われ、その対応策は当初の予想を超えて堅実と言われています。最近の統計によれば、日本経済の回復への寄与度はアメリカと中国が同等となっていますので、中国経済の回復は日本経済の好転にかなりの貢献をすると思われます。

日本経済の将来ビジョンを描く時にいまだ金融立国論を振りかざす政治家が散見されますが、こういう人は信用しない方が良いと思います。ロンドンのシティやニューヨークのウォール街には金融インフラで遠く及びませんし、何より日本は欧米に圧倒的に優る別のアドバンテージを持っているからです。欧米が失ってしまい、金融経済に走らざるを得なくなってしまったモノ作りのノウハウと素材・部品・装置から製品に至るまでフルラインナップで企業が存在し、そのすり合せノウハウ・シナジー効果が図れる世界唯一の国だという強みです。

かつて「あのアメリカでさえ自動車会社が 3社しか生き残れないのだから、3分の1 の市場の日本で 2輪・4輪メーカーが 12社も生き残れるはずはない。アメリカ並みに 3~4社に統合すべきだ」という議論がありましたが、アメリカはその 3社ですら存続が危ぶまれている中、いまだ日本は 12社が生き残っています。

川上から川下まで、つまり素材から製品までという流れが、製品開発は素材開発からというすり合せノウハウを生み出し、日本全体がモノ作りの研究施設になっているのです。

製造業は GDP の 3割でしかなく、7割はサービス産業という実態を捉え『脱モノ作り』を標榜するオピニオンリーダーが居ます。しかし、サービス産業はモノ作りに派生して発生するという原点を理解していない人たちです。高機能携帯電話が出来るにしたがい、その携帯電話の利便性を高めるためのサービスが生まれます。着メロや駅ナビはモノ作りから派生したサービス産業です。さらには、その外側に今度は携帯電話をツールとしたサービス産業が生まれます。インターネットオークションや携帯電話からアクセスする QRコードを使ったサービス産業です。

金融業というのは本来、資金仲介機能を通じて実体経済の付加価値を生み出していく役割のはずでした。それが昨今、資金運用機能に特化するにつれて付加価値の創造と乖離したバーチャル付加価値経済へと盲進してしまった挙句が、この経済危機なのです。実需を伴わない限り価値は生み出されない、「バーチャルから実業へ」この事を世界の政治リーダーは肝に命ずべきです。

今回の金融危機を作り出したウォール街の張本人たちは懲りもせずに次なるバブルで一儲けを狙っています。そして、彼らが狙う次なるターゲットは「CO2 排出権取引」なのです。トン当たり 1500円の CO2 取引価格がバブルで 5000円超になっていけば、毎年 1~2兆円払い続けさせられるのは他ならぬ日本なのです。

 

今週の出来事「定額恐怖金?

 

「今朝の、自民党の役員会で定額給付金は全員でもらうという方針が決定しました。内閣としても、明日の閣議の際にそういう方針に致しますので、ご理解を宜しくお願いします。」

官房長官から電話がありました。

「内閣の方針がそういう事になるならば、内閣の一員である以上、その決定には従います。」

案の定、予算委員会で民主党からどう方針変更するのかとの質問が飛びました。

「公約通り、家族にはポケットマネーで支給をするという方針は変わりませんから、内閣の方針とあわせ、私の家族は給付金の二重取りという事になります。」

記者会見で何を買うんですかと聞かれ、「地元商店街で家族分とあわせて地デジ用テレビを買おうと思います」と言ってはみたものの、家族は「私たちには私たちの買いたいものがある」と言うに決まっています。ですから、公約を果たすためには更なるポケットマネーの追加を強いられそうです。

「あ~ぁ。だんだん『きゅうふきん』を『きょうふきん』と漢字の読み間違いをしそうだなぁ…」