国会リポート 第133号

甘利明本人が綴る、毎月2回のコラムです。国政で今何がおきているのか解りやすく解説しています。

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経済産業大臣の最後の仕事として WTO (世界貿易機関) の閣僚会議に出席してきました。

7年前に立ち上がった WTO ドーハラウンドは東京ラウンド、ウルグアイラウンドに続き関税の削減や貿易障壁の除去等、貿易ルールを改善する大作業です。非公式の大臣レベル・事務レベルの会合を数十回と繰り返し、今回農業分野と非農業分野の枠組みを合意するための 4年ぶりの正式閣僚会合です。WTO 加盟国 150カ国の貿易大臣が集まり、事務レベルで積み上げてきた議論を収斂させ合意に至る極めて重大な会合です。

150カ国の総会では議論を煮詰める事はできないので、グリーンルームと呼ばれる 30カ国の閣僚に絞り込んだいわば幹部会で議論いたします。初回の会合で、各国が一項目ごとに発言を始めると一巡するだけで一日かかってしまいました。そこで WTO ラミー事務局長から「この中からさらに数カ国に絞り、そこでの議論に委託してくれませんか?」と提案があり、了承されました。

この数カ国に入る事が生死を決する重大な事です。4年前には日本は外されました。しかし、私が大臣就任以来、ラミー事務局長と十数回の会談を行い主要各国とも同様の会談を重ねて来た日本は、今回は 7カ国の少数会合のメンバーに選ばれました。さぁ、それからが大変です。小さな部屋に閉じ込められ、連日連夜 10時、11時まで食事も取らず大臣間だけのぶっ通しの議論が続きます。ある日は午前 4時までかかりました。

日本のマスコミは何を勘違いしたのか「日本の貢献は少なかった」と報道しましたが、まったくの取材不足です。

実は私の担当する非農産品分野で先進国と途上国がどうしても折り合わない大きな二点が分野別関税撤廃協議と反集中条項 (途上国の関税引き下げを猶予する部分が特定分野に集中する事を避ける条項) でした。

前者はアメリカが、後者は EU がどうしても譲れない点であり、途上国側は最大警戒する案件です。両者の議論が収斂しないので日本が改定提案を事務局に行い、同時にバイ会談 (二国間会談) を関係国と重ね、また中間国会合を日本が主催し、後押しとなる中間国提案を出してもらう等、日本が仲介した案件は最終的に先進国・途上国の譲歩を生み出すことに成功しました。

決裂した原因は、アメリカと中国、インドが SSM (農産物輸入が急増し途上国の弱小農家がつぶれてしまう事を防ぐ一時的関税引き上げ措置) で両者一歩も譲らず合意ができなかった事にあります。最終日に私が行なった「決裂の原因を事務運営も含めて検証し次回の成功に繋げて欲しい。コンセンサスが取れた部分は次回への基礎として欲しい。」という提案は多くの国の賛同を生みました。

 

今週の出来事「コーヒーブレイク!?

 

少数国会議は 7カ国の大臣だけで 10時間以上、ぶっ通しで議論が行われますので、部屋の外の廊下にはコーヒーのポットやバナナが置いてあります。

その席上、議論が白熱し、先進国の大臣と途上国の大臣の口論になってしまいました。

先進国の大臣が「こんな学生の書生論みたいな議論に、これ以上係わるつもりはない!」と言って、プイッと席を立ってしまいました。論争していた途上国の大臣も「そっちが出て行くならこっちも出て行くぞ!!」と怒鳴り声を上げ、席を立ち上がり、極めて険悪な状況になりました。

そこで私が、やおら立ち上がり「Excuse me, Can I leave here? (あのぉ…私も出て行って良いですか)」と発言したところ一瞬にして『し~ん』となり緊張感が走りました。すかさず「For a few minutes to get a coffee. (2~3分だけ、コーヒー取りにね)」と、空のコップを差し出したところ場内は大爆笑。瞬時にして和やかな雰囲気が帰ってきました。

後刻、通商政策局長が「EU の関係者から『甘利大臣のユーモア感覚は最高だ!』と絶賛されました。一体何があったんですか?」と問われましたが、真相はそういう事だったんです。