国会リポート 第132号

甘利明本人が綴る、毎月2回のコラムです。国政で今何がおきているのか解りやすく解説しています。

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6月 21日から 7月 4日までサウジアラビア、クウェート、イラク、ブラジルをまわる二週間の海外出張を終えて帰ってきました。

中東に関して言えば、原油増産の要請と原油増産能力への設備投資の確約を取り付ける事が最大の目的であり、その目的は達成できましたが原油市況はさらに高騰するという皮肉な状況です。原油の異常高騰をクールダウンさせようと行動を取るたびに、それを否定するかのようにタイミングを合わせて特定産油国の政情不安や紛争の可能性の情報を流す輩が居るのは、原油先物取引で大儲けを狙おうとしている連中の営利主義による行動と連動しているように思われてなりません。

石油の供給は決してショートしている訳ではありませんので、ただ増産するだけでは在庫が増えるだけという産油国の主張は一理あります。しかし、原油先物市場は、今は足りているけれども将来は供給不足を起こすという事を先回りして高値を付けているわけですから、将来にわたってもショートする状況を作らない事が原油価格を安定させるはずですので、将来の増産余力を拡大するための設備投資が重要になります。

そのコミットを取り付けたのに油価が上がるのは金融筋の思惑が働いていると言わざるを得ません。今後、IEA (国際エネルギー機関) を中心に需要の伸びの正確なデータと、それを補う供給側の設備投資の正確なデータを集計するとともに、消費国は消費の伸びを徹底的に抑えるための省エネルギー投資、代替エネルギー投資の将来計画を次々と発表すべきです。

先進国は石油を使わない社会を目指すというような大胆なプランのロードマップを発表するくらいの事をしなければ、世界経済を混乱させながら一人儲けをむさぼっている輩に鉄槌を加える事はできないと思います。

サウジは現在の日量 910万バーレルを将来 1500万バーレルまで引き上げるという発表をいたしましたし、私が交渉したクウェートでも増産をコミットいたしました。さらに電撃訪問したイラクでは、現在の 200万バーレル体制を 10年後までに 600万バーレル体制にまで持っていくという宣言もいたしましたが、訪問の使命を果たしながら結果が出ない事に苛立ちと怒りを覚えます。

イラクはこの三ヶ月で急激に治安が改善したとはいえバグダッドへの VIP の訪問は依然完全な情報管制をしなくてはなりません。存在感を示すために迫撃砲その他で攻撃をしてくる輩がまだまだ蠢いているからです。そうした中での極秘裏訪問は『良くぞ来てくれた!』と『やっと来てくれたか!』が混在する感情で大歓迎を受けました。「日本には最優先で原油を供給します。」シャハリスターニ石油大臣の記者会見での表明はこの訪問の重さを物語っていると感じました。
しびれを切らしていたのは通商産業大臣の訪問が 24年ぶりであったというブラジルも同様でした。「日本は、オイシイ事は言うがその後の具体化が伴わない。」私の訪問はバイオエタノール取引と地上波デジタル日本方式採用後の半導体投資に関し、具体策を提示するものでありました。

「今日の会談は大いに満足した!」私との一時間に及ぶ会談を終える際のルーラ大統領の発言は日本への信頼をしっかり取り戻したと自負しております。

 

今週の出来事「まるで映画の世界?

 

治安が良くなりつつあるとはいえ、バグダッドへの訪問はリスクの高いものです。

通常の防弾チョッキよりも重装備の前後数センチの金属板入りの物を身につけますので重さは 30キロにもなります。

自衛隊の輸送機でバグダッド空港まで移動した後、米軍ヘリで中心部まで移動します。陸路の選択もありますが、今回はヘリ移動をいたしました。上空から不審者の発見と排除がしやすいためかと思います。

飛び立つや、左右に設置された重機関銃を射手が下に向けて目を凝らして身構えている姿に接した時に更なる緊張感に包まれます。

この防弾チョッキは至近距離からの襲撃にも耐え得ますから、という説明も、うまくそこに当ててくれればの話ですけどね。